「好きなアーティストは?」と訊かれて「伊勢正三」とこたえても、知らない人が多い、最近は。で、たいてい説明することになる。「かぐや姫って知ってる?」「風って知ってる?」みたいなことから始まって「なごり雪」とか「22才の別れ」とかいくつか彼が作った有名な曲名をあげていくと、「ああ、そうなんだ」となんとかわかってもらえる。
けど、そこで伊勢正三のビジュアルを思い浮かべる人はどれくらいいるだろう? その当時の彼のギタープレイや歌声を思い出す人はいるんだろうか? 思い込みだけで書いているが、70年代をフォークソングからAORまで、ポップスの振り幅をめいっぱい使いながら、珠玉の名曲、名プレイを生み出してきたのが伊勢正三だ。
「かぐや姫」はフォークソングの域にとどまっていたが、「風」の進化はすごかった。75年から78年にかけて5枚のオリジナルアルバムをリリースし、79年にベストアルバムを出して活動休止にいたるまで、まさに風のようにポップスの平原を駆け抜けていった。叙情フォーク「22才の別れ」(デビューシングル)から、フュージョンの匂いも持つ「海風」(『海風』収録)まで、自由に、変幻自在に。
そういえば、1978年に期間限定で再結成されたかぐや姫のライブを横浜スタジアムに見に行って、伊勢正三がBCリッチを弾きながら歌ったロック風「22才の別れ」にちょっとした衝撃を受けた。デビュー時の「22才の別れ」とは、もう違う世界の音になっていて、70年代のフォークソングが確実に終わりを迎えているのだと思った。
2016.03.11
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