新宿ルイードで「BABY BLUE」レコ発のライヴ
多くの人たちの尽力のおかげで、ついに完成した、銀次5年ぶりのソロ・アルバムの『BABY BLUE』は、1982年4月25日にリリースされ、予想以上のセールスと評判を得て、銀次のソロ・アーティストとしての活動が再スタートすることになった。そこで所属レコード会社のポリスター・レコードから、この『BABY BLUE』レコ発のライヴをぜひという要請が!!
それまでライヴはやってはいたものの、松原みきさんや佐野元春君のバックバンドのギタリストとしてのライヴばかり。自分の曲を自分で歌うライヴは、本当にひさしぶりのことだったので、この時は少しビビってしまった銀次だったが、僕のありったけのポップミュージックをこれでもかと、惜しみなく注入して作った『BABY BLUE』が評価されたことが何よりもうれしくて、この申し出を喜んで引き受けることにした。
会場は、今はもうなくなってしまった新宿ルイード。そして僕のライブを手伝ってくれたのは、その当時所属していた佐野元春 with ザ・ハートランドのメンバー。
などなど、ライヴに向けての打ち合わせをしていると、スタッフからせっかくだから何かあっと驚くおもしろい趣向はないかとの打診が。
そこでひらめいたのは、普通にライヴを始めないで、オーディエンスの想像もつかないオープニングにすることだった。今思い出すと、よくあんなアイデアが出てきたものだと自分でもあきれてしまうそのアイデアとは?
憧れのDJ、糸居五郎に出演依頼。題して、伊藤銀次と二人で「ダブル G. I. ショー」
―― それは『オールナイト・ニッポン』でおなじみだった憧れのDJ、糸居五郎さんに出演していただいて、ライヴのオープニングでDJをやっていただきながら、僕を紹介していただけないかという、とんでもないアイデアだったのだ。
『BABY BLUE』のリリース当時、盟友の佐野元春とともに僕はバディ・ホリーやチャック・ベリー、エディ・コクランなどのロック・ジャイアントたちに心酔していた。僕がティーンエイジャーの頃、そういったアーティストや B.B.キングなどのブルース・ミュージックの音源を『オールナイト・ニッポン』でかけてくれ、僕たちにロック・ミュージックの素晴らしさを啓蒙してくださっていた糸居さんにぜひ出ていただきたかった。
その時点では99%くらいダメだろうなあと思っていたら、なんと糸居さんからうれしい「いいとも!」のお返事が!!
しかも緊張して臨んだ憧れの糸居さんとの打ち合わせで、糸居さんから、
「Ginji Ito も、Goro Itoi も、頭文字は G. I.。この二人のショーだから『ダブル G. I. ショー』というタイトルはどう?」
というごきげんな提案が!! 憧れの糸居さんから逆にこんなステキなアイデアをいただきもう大感激の銀次でした。
糸井五郎から受け取ったスピリット
さて、いよいよそのライヴ当日。満員のお客さんでびっしり埋まったルイードの客電が落ちると、いきなりあのドンチカドンのドラム・サウンドで始まり、♪ パパッパ… のトランペットのフレーズにつながっていく『オールナイト・ニッポン』のテーマ「Bitter Sweet Samba」が会場に流れるや、なんとステージ右端に作られたDJブースに、誰も予想してなかった糸居五郎さんが!! そしてテーマに乗せていつもの軽やかでおしゃれなあの名調子が――
「夜更けの音楽ファンこんばんは。夜明けの音楽ファンごきげんいかがですか? 糸居五郎です。今日は Ginji Ito と Goro Itoi の『ダブル G. I. ショー』。Go, Go Go & Goes On !!」
そしてそのままチャック・ベリーやジーン・ヴィンセントやバディー・ホリーなどをかけて小気味よく手短かにロック・ヒストリーを語ってくださった後、ここで糸居さんから僕の呼び込みがあり、1曲目「Just A Little Love」のドンドコドンドコという古田たかしのドラミングからいよいよ銀次のポップンロールショーの始まりとなったのでした。
最初は何が起こったのかと戸惑っていたお客さんも破顔一笑。大ウケにウケて、予想以上に盛り上がった滑り出しとなった。世代は違えどポップスを愛してやまないダブル G. I. の奇跡のような出会い。
このライヴの2年後に、なんと糸居さんは亡くなられたことを思えば、もしあの時ダメもとで共演を申し出なければ、憧れの糸居さんとの共演は実現しなかった。今振り返っても夢のような一期一会の『ダブル G. I. ショー』。亡くなられたのはとてもショックで残念なことだったけれど、あの日僕は糸居さんから、確実に何かスピリットと言えるものを受け取った気がするのでした。
2019年7月29日に掲載された記事をアップデート
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2022.11.24