伝説のアイドルグループ、キャンディーズデビュー50周年
2023年9月1日、伝説のアイドルグループ、キャンディーズがレコードデビュー50周年を迎える。そう、驚くべきことにあれから半世紀が経つのだ。
キャンディーズは1973年9月1日、「あなたに夢中」でデビューを果たした。ラン(伊藤蘭)、スー(田中好子)、ミキ(藤村美樹)の3人は、渡辺プロダクションが運営する東京音楽学院の生徒たちで結成されていた「スクールメイツ」の一員だった。人気スターのバックで踊ったり、デパート屋上やイベント会場で行われていた「スクールメイツショー」に参加したり、といった仕事をするうち、1972年4月に、NHKの音楽番組『歌謡グランドショー』のマスコットガール兼アシスタントに、3人が抜擢されたのである。
また、3人はこれと前後して、同年4月にテイチクからスクールメイツの一員として、ザ・ニュー・シーカーズ「愛するハーモニー」の日本語カヴァーでレコードを吹き込んでおり、その際のジャケットにはスクールメイツ時代の3人が写っている。
キャンディーズという絶妙なネーミングの由来は?
「食べてしまいたいほどかわいい女の子たち」をイメージして、キャンディーズという絶妙なネーミングを付けたのは、『歌謡グランドショー』のプロデューサー。同番組での活躍を経て、同年の大晦日に放送されたNHK『紅白歌合戦』にも、スクールメイツとしてオープニングでダンスを披露しているほか、橋幸夫のバックで「子連れ狼」のコーラスを担当。さらに3人は「純潔」を歌う南沙織のバックで、ぬいぐるみのパンダと一緒に踊る姿も映像に残されている。
名前まで決まっていながら、レコードデビューの予定がなかったキャンディーズだが、たまたま東京音楽学院を訪れた渡辺音楽出版の松崎澄夫が彼女たちを目に留め、歌手デビューが決まる。ちなみに松崎はグループサウンズの “アウト・キャスト” “アダムス”のヴォーカリストで、アダムス解散後にディレクターに転身、72年に伊丹幸雄を手がけていた。
レコード会社はCBS・ソニーに決まり、ソニー側のディレクターは中曽根皓二、渡辺音楽出版側は中島二千六がプロデューサー、松崎が現場ディレクションを手がけた。中曽根=中島の組み合わせは、当時、人気絶頂だった天地真理のスタッフと同じ布陣である。中島は「歌って踊って、ハーモニーも出せる」グループを目標とし、ヴォーカルトレーニングは、松崎とはアウト・キャスト時代からの盟友である穂口雄右がレッスンすることになる。穂口はリズム、正確なピッチ、テンションコードとハーモニーの組み立てを3人に徹底して教え込んだという。
穂口曰く、ランは時代を先取りしたリズム感と広い音域を持っており、スーはその音色と安定した歌唱、特に中音域の説得力が貴重だったと語っている。そして絶対音感の持ち主であり、読譜力もあるミキが音楽面でのリーダーとなった。
高度なハーモニーと掛け合いを利かせたデビュー曲「あなたに夢中」
デビュー曲に決定したのは、山上路夫作詞、森田公一作曲による「あなたに夢中」。この作家コンビもまた、「虹をわたって」「恋する夏の日」など天地真理絶頂期のヒットナンバーを手がけており、編曲の竜崎孝路もやはり天地真理作品に欠かせないアレンジャーであった。キャンディーズに対する渡辺プロ、ソニーの期待の大きさが窺える。「あなたに夢中」は3声によるハーモニーを主体に作られており、歌い出しの「♪あなたが好きー」からラン、ミキ、スーの順で声を重ねていき、サビの「♪心を重ねて〜」の個所では、センターのスーがリードを取り(心を)、追っかけのフレーズ(重ねて)をランとミキが被せるといった、最初から高度なハーモニーと掛け合いを利かせているのだ。
東京音楽学院の講師でもあった西条満が手がけた振り付けは、冒頭、後ろ向きの3人が1人ずつ振り返りながらハーモニーを重ねていくという印象深いものであった。
当時のヒット曲のカバーが収録されたファーストアルバム「あなたに夢中〜内気なキャンディーズ〜」
同年12月5日には早くもファーストアルバム『あなたに夢中〜内気なキャンディーズ〜』が発売される。ここで注目しておきたいのは、宮川泰の作曲による、セリフ入りの自己紹介ソング「キャンディーズ」、第2弾シングル「そよ風のくちづけ」の原曲「盗まれたくちづけ」などのオリジナル曲と、当時のヒット曲のカバーだ。ミキがソロを取るのは郷ひろみの「愛への出発」、野口五郎の「君が美しすぎて」、ランは南沙織の「傷つく世代」と沢田研二の「あなたへの愛」、スーはチェリッシュの「避暑地の恋」。そしてそれぞれのソロパートにハーモニーが加わった天地真理の「空いっぱいの幸せ」と、3人の声質と個性を活かした選曲となっているのが楽しい。
キャンディーズはスタートから音楽面での充実を図り、コーラスグループとして高い地平を目指していたことが、このファーストアルバムからも窺い知れるのだ。
「あなたに夢中」はオリコンチャート最高36位とそこそこの成績に終わり、キャンディーズのブレイクは5作目「年下の男の子」まで待つことになるが、その初々しさと原石の魅力は、かけがえのないものであった。
ちなみに、この1973年は、女性新人歌手の豊作年で、同年の日本レコード大賞の新人賞のメンバーを見ても、最優秀新人賞が桜田淳子。ほか新人賞4名はアグネス・チャン(前年11月デビュー)、浅田美代子、安西マリア、あべ静江で、山口百恵や石川さゆりもこの年のデビューである。
41年ぶりに歌手復帰した伊藤蘭の現役感
1978年の解散から、田中好子は2011年に55歳の若さで逝去、藤村美樹も83年に期間限定でソロ活動をしているが現在は引退。伊藤蘭だけが2019年に41年ぶりに歌手復帰し、現在もキャンディーズのナンバーをソロで歌い継いでおり、ソロアルバムも3枚発売するなど精力的に活動している。
伊藤のヴォーカルの現役感にも驚かされるが、ライヴで披露されるキャンディーズの名曲たちは、時を経ても、全く古びることなく「懐メロ化」していない点が何よりも素晴らしい。その原点は、まさしく半世紀前の、この時に確かに存在していたのだ。
▶ キャンディーズのコラム一覧はこちら!
2023.09.01