夏うたを2026年の視点で再編集 vol.4
海 / サザンオールスターズ
女性目線で描かれた桑田佳祐の日常の風景
数多く存在するサザンオールスターズの夏うたの中で、多くの人がまず思い浮かべるのが「真夏の果実」(1990年)や「TSUNAMI」(2000年)のような曲だろう。ただ、ここではあえて1980年代にリリースされた初期の曲から選んでみた。
実はサザンには活動の転機となった時期がある。以前、某関係者に聞いた話によると、原由子のおめでたで活動休止となった『KAMAKURA』(1985年)を境に、きちんとヒットを狙っていくように活動の方向性が変わったようだ。この話だけで長文の論考が書けてしまうのでここでは深入りしないが、自分たちの音楽と純粋に向き合っていた初期のサザンは、夏や海を特別なものとして描いていない。あくまでも湘南のロコである桑田佳祐の日常の風景として歌の中に登場するのだ。
この「海」という歌はまさにそれだ。オリジナルは1984年7月にリリースされたアルバム『人気者でいこう』に収録されている。しかしさらに遡ると本作がリリースされる3ヶ月前、サザンオールスターズと同じアミューズ所属だった、ジューシィ・フルーツのシングル「萎えて女も意思をもて」のB面に収録された提供曲だった。ジューシィ・フルーツは女性ボーカリスト、イリアを擁したバンドだったことからも分かるように、女性目線で作られた歌である。
真夏の出来事がショートムービーのように見えてくる
歌詞には「♪海辺へ通う道」というフレーズが出てくる。おそらく江ノ島のような観光スポットではなく、茅ヶ崎や辻堂の住宅地を抜けて、国道134号線を越えて海へと向かうのだろう。通うのだから、この女性はこの近くに住んでいるロコ・ガール(地元の女の子)だ。
相手の「♪移り気なアナタ」は海で待っているサーファーなのだろうか。真夏の出来事だが、彼女は泳ぎにいくわけではない。薄手のワンピースか何かを着て、彼がサーフィンする姿をしばし眺めて、海から上がってくるのを待っている情景が思い浮かぶ。だから、時間は午前中の早い時間だろう。夏の間、そんな日常を過ごしている姿がショートムービーのように見えてくる。
爽やかな湘南の朝の風景を思わせるAOR風の楽曲
楽曲自体はクールなAOR風で、メロウなムードに包まれている。原由子が弾くフルートのようなシンセサイザーのイントロ、曲中のエレクトリックピアノの音が実に涼しげで、とりわけサックスのソロがAORのテイストを感じさせてくれる。これもまた、爽やかな湘南の朝の風景を思わせてくれる。
そして、夏の間しか海に来ない彼は去っていってしまう。そして彼女はいつものように、また思い出のビーチに来るのだ。もちろん、歌詞にそこまでは描かれているわけではない。しかし行間からはそんな風景が見えてくる。
湘南の海がまだまだのどかさを残していた昭和の時代。こういった小さな物語は、日本全国どこの海辺にもあったはずだ。この歌を聴いていると、遠い記憶の中にある海辺の風景が、少し眩しく蘇ってくるようだ。別に誰かに共感してほしいわけでもなく、ただありのままの海辺の姿を描いてみた—— そんな桑田佳祐が見ていた地元の海の姿は、どんなに時間が過ぎても、この歌の中に変わらずに刻み込まれている。
▶ サザンオールスターズのコラム一覧はこちら!
2026.07.16