今からちょうど40年前にリリースされたユーミン冬の風物詩「DA・DI・DA」
ユーミンこと松任谷由実のアルバムが年末に発売されるようになったのは、1983年のアルバム『VOYAGER』から。そこから1995年の『KATHMANDU』まで、毎年 “冬の風物詩” として街をにぎわせていた。今回のコラムの主役は、そんな “冬の風物詩” の3作目となるユーミン通算17枚目のオリジナルアルバム『DA・DI・DA』である。
今からちょうど40年前、1985年12月1日に発売されたこのアルバムは、まずタイトルとジャケット写真が目を惹く。タイトルの『DA・DI・DA』は1曲目に収録されている「もう愛は始まらない」のコーラス部分に出てくるフレーズだが、ユーミンいわく特に意味はなく、あくまで感覚的なワードだそう。言ってみれば『PEARL PIERCE』に収録されている「DANG DANG」に近い感覚だろうか。ジャケットやブックレットの写真は横浜市大倉山記念館で、“シンガーソングライター” を意識して撮影されている。
小林麻美がフェイバリットソングに挙げている「BABYLON」
アルバムのコンセプトは “青春小説短編集” で、全9曲それぞれに違うキャラクターの主人公が存在している。
当時のインタビューで、“車の中で彼氏とケンカしてハイヒールで車のドアを蹴っ飛ばして閉めてしまうような鼻っぱしの強い女性” が主人公だと答えていたのが、2曲目に収録されている「2人のストリート」。オチとして、このカップルは仲直りするので、主人公の女性は気は強くても可愛げのあるキャラクターだろう。ちなみに、あまり認知されていないかもしれないが、この曲はクリスマスシーズンの歌でもある。
3曲目の「BABYLON」は、ユーミンの親友としても知られている小林麻美がフェイバリットソングに挙げている1曲だ。地方から都会に出てきた女性がだんだん都会に染まっていく自身を憂いている内容で、ユーミンのコンサートでは幻想的な演出で歌われることが多い定番曲。
4曲目の「SUGAR TOWNはさよならの町」はナンシー・シナトラの「シュガータウンは恋の町」をもじった洒落たタイトルだが、ユーミンは “恋の町” ではなく “別れの町” を描いている。バスも電車も止まるような大雪の日に別れていく、恋人たちの心情と風景描写がリンクしていく名曲だが、吹雪の描写を「♪サテンのシーツをなびかせ」と表現するあたりは、さすがユーミンである。
世のシングルガールたちの応援歌「メトロポリスの片隅で」

5曲目の「メトロポリスの片隅で」は資生堂フェアネスのCMソングに起用されたシングル曲だ。フェアネスはコスモアイカラーというアイシャドウで、9色のアイカラーを9つの惑星(水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、冥王星、海王星)にかけた商品であった。ただ、すでにユーミンは1983年のアルバム『VOYAGER』で宇宙をテーマにしていたので、ここでは都会で強く生き抜く主人公を “PLANET(惑星)” になぞらえ、世のシングルガールたちへの応援歌のような曲に仕上げている。
6曲目の「月夜のロケット花火」は、逗子マリーナコンサートのテーマソングみたいに響いてくる1曲だ。卒業前の最後の夏に女友達みんなで、ロケット花火を打ち上げる夜の浜辺のシーンを描いた、明るくもどこかホロっとするナンバーだが、ユーミンが一番表現したかったのは「♪満月が海原に道を作ってた」という風景描写だったかもしれない。
遠距離恋愛の恋人たちを描いた「シンデレラ・エクスプレス」
TBS系『日立テレビシティ』の中で制作されたドキュメンタリー番組『シンデレラ・エクスプレス~48時間の恋人たち』の主題歌が、7曲目の「シンデレラ・エクスプレス」。日曜日の大阪行きの最終の新幹線のホームで、遠距離恋愛の恋人たちが別れを惜しみ抱き合う姿は社会現象になったが、歌詞の「♪あなたの街を濡らす雨は もうじきここまで来る」の部分は、さりげなく遠距離を表現しているフレーズである。
8曲目の「青春のリグレット」はシングルでないにもかかわらず、アルバムの中で一番メジャーな曲だ。もとは前年の1984年に麗美に提供した曲だったが、疾走感あふれるユーミンのセルフカバーは、コンサートの定番曲として長きにわたり愛されている。そんなことからも、2012年のベストアルバム『Neue Musik(ノイエ・ムジーク)』や、デビュー40周年の記念ベスト・『日本の恋と、ユーミンと。』にも収録されている。
「DA・DI・DA」はまるで9編の短編小説
そして、エレクトロサウンドのイントロが印象的なロックナンバー、「たとえあなたが去って行っても」でアルバムはエンディングを迎える。この曲はこれまでコンサートツアーで一度も歌われたことのなかった、ある意味レアな1曲だが、このアルバムを象徴している1曲だともいえる。
1985年は男女雇用機会均等法が制定された年でもあった。ここでは、自身の行く道を曲げなかった主人公が描かれているが、女性も夢のために生きていける時代が到来することを、ユーミンが高らかに宣言した応援歌なのだ。そういう意識で聴いてみると、イントロが新時代を告げるファンファーレに聞こえてくるようである。
アルバム『DA・DI・DA』の発売からちょうど40年だが、曲の中の主人公のマインドは少しも古びることなく輝き続けている。音楽を聴く環境はサブスク時代に突入し、アルバムを1枚を通して聴く機会は多くないと思うが、これを機会に約40分間『DA・DI・DA』の世界に身を投じてみてはいかがだろうか。まるで9編の短編小説を読んだような読後感を味わっていただけると思う。
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2025.11.30