JR東海の物語CMは、山下達郎の曲でおなじみ『クリスマス・エクスプレス』が始まりだと勘違いされがちである。しかし、新幹線と恋愛ストーリーの関わりはもっと前から話題になっていた。キーマンは、松任谷由実と(またもや当コラム登場の)わたせせいぞうである。しかも、JRになる前の旧・日本国有鉄道の時代、きっかけは単発のテレビ番組だった。
ときは1985年。TBS系で『日立テレビシティ』という番組があった。日立の冠付き一社提供で、土曜の夜にオンエア。そう、『ふしぎ発見』の前身である。シリーズのドラマや単発ドキュメンタリーなど色々な内容が放送される枠だった。そこに、扱い代理店である電通が企画を持ち込む。
タイトルは『シンデレラエクスプレスー48時間の恋人たちー』。さらに「CFディレクターより愛を込めて」という、今となってはちょっと気恥ずかしいサブタイトルまで付いていた。ユーミンの歌をモチーフに、CFディレクターが撮る、日曜夜の新大阪行き最終新幹線が出るまでの恋人たちのドキュメント。同時に、わたせせいぞうが『ハートカクテル』のコミックとして描くというメディアミックス企画であった。
男女雇用機会均等法の施行される前、地方への転勤は男だけ。二人をつなぐのは、固定電話の声だけ。そんな80年代、大阪や名古屋は、いまよりずっと遠かった。SNSと新幹線の高速化で距離のギャップが消滅した現在では、想像もつかない悲喜こもごものドラマがあった。
CMの『シンデレラ・エクスプレス』がオンエアされるのは、この番組から2年も後の1987年である。TBSの特番が注目した現象を、民営化後にやっとCMにしたというわけだ。その後、JR東海は『○○エクスプレス』と銘打ち、「ファイト」「プレイバック」「ハックルベリー」など季節毎にエクスプレスCMを連作する。88年に始まる「クリスマス〜」も、最初はこのシリーズの一つだっだ。
しかし、このCMが切ないのは何故だろう。『クリスマス・エクスプレス』が近づいてくる話なのに対し、『シンデレラ・エクスプレス』は遠のいていく話なのである。遠距離恋愛はたいてい、消えてゆくものだ。新幹線のテールランプの残像は、まるで二人の赤い糸が切れて流れていくよう…...
とここまで書いてきて、涙なしには語れぬこのストーリーの根本的な欠陥に気付いてしまった。カボチャの馬車に乗るべきは、シンデレラの方なのである。王子が乗って行っちゃって、どうするんだよ。
2016.03.20
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