1979年にNHKでスタートした人形劇『プリンプリン物語』が、38年を経た2017年7月5日から再放送していたという。本放送での放映時間は月曜日から金曜日の6時25分からの15分。我が家は夕飯が6時からだったので、毎日早食いして放送を観ていた。
幼い頃に箱舟で海に流されて拾われた、どこかの国のプリンセス、プリンプリンが、見知らぬ自分の祖国と両親を探して、さまざまな国を旅する物語である。旅仲間や訪れる様々な国の変な登場人物と、その騒動がとてつもなく面白くて夢中だった。
プリンプリンの人形の声優は、石川ひとみだった。可憐なプリンプリンにぴったりの声。オープニング曲だけでなくプリンプリンが歌う劇中歌も石川ひとみが歌っていたが、伸びやかで透明感のある声が、本当にかわいかった。
しかし、小学生だった私はみんなに愛されるプリンプリンが「いい子」すぎてちょっと嫌な時もあった。石川ひとみのかわい過ぎる声にもちょっとイラッとした。祖国を思ってキレイな声でキレイごとを歌ってないで、とっとと探しに行けや! と。せっかく女の子が主人公の冒険譚なのだから、もう少しアクティブな「ぶっちゃけ」キャラでもいいんじゃないかと思った。
そんなプリンプリンを観ていたらいつの間にか、石川ひとみをテレビで見る機会が多くなってきた。彼女が81年に出したシングルが、いきなりヒットしたのだ。歌番組に出て、あのかわいくてキレイな声でキレイな歌を歌っている… と思って聞いていたら、あまりに恐ろしい歌でびっくりした。
あの娘がふられたと 噂に聞いたけど
私は自分から いい寄ったりしない
別の人がくれたラブレター 見せたり
偶然を装い 帰り道で待つわ
タイトルは、「まちぶせ」。あみんの「待つわ」より1年先んじて、積極的に、策を練って、「待つ」女が現れた。
もうすぐ私きっと あなたを振り向かせる
あなたを振り向かせる
という宣戦布告のようなリフレインで終わる。もしプリンプリンだったら「あなたはどこ~!? 探し続けるわ~~~♪」といい子気取りで歌い続けるだろうところを、リアル石川ひとみは喫茶店をのぞいて、そしてテーブルをはさんで、狙い定めて熱く見つめながら、帰り道でまちぶせしているのである。とてもかわいくて、すごくキレイな声でその作戦を歌っている。
石川ひとみは、当時歌手になって4年目。最低4年は歌手として頑張ろうと考えていたところだそうで、ちょうどこのシングルが10枚目。「この歌だったら、これが私の歌手生活のピリオドになっても悔いはない」と思ったそうだ。
18歳で上京して歌手デビュー準備中に、三木聖子のこの歌を練習していて、好きだったという。本人は「なぜ自分がこの歌をカバーすることになったかわからない」と言っていたが、本当はこの歌が自分に来るのを虎視眈々と「まちぶせ」していたのではないか? この歌は、自身の最大のヒットになった。
小学生でこの歌を聞いて「恐ろしい」と思ったが、その後大人になるまで、こうした「まちぶせ」女をたくさん見ることになった。まちぶせ女たちは慎重に、巧妙に、堀を埋めていく。
ねらった獲物=男が、まるで、自分で彼女たちを「好きになった」かのように仕向ける。「別の人がくれたラブレター見せたり」「偶然を装ったり」して、男性の自発性や独占欲や純情やロマンチシズムといった心理をうまく煽り、操作していく。そうやってまちぶせされて捕獲された男たちを見るたび、「あーあ、ひっかかって」と思った。
最近、懐メロ番組で石川ひとみがこの歌を歌うのを見たが、声がまったく衰えていない。あのキレイな声で、可憐に、昔と同じように歌っていて驚いた。
また、プリンプリン物語をフィーチャーした特番で、プリンプリンが「一番好きな歌」と言って「まちぶせ」を歌っている映像を見てもっと驚いた。本当にかわいい。ここまでかわいいと、もう神々しい。昔は恐ろしいと思ったが、こんなかわいい声で「あなたを振り向かせる」という甘い呪縛をかけられるのなら、まちぶせされたくない男なんて、いないかもしれない。
歌詞引用:
まちぶせ / 石川ひとみ
※2017年7月22日に掲載された記事をアップデート
2019.04.21
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YouTube / 銀河宇宙太
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