エレクトロポップの新星、ペット・ショップ・ボーイズ
ソロシンガーも好きだけれど、デュオとか、ユニットとか、そういうものにもときめくのはなぜなんだろう? もちろん、もっと人数が増えて、いわゆるグループも、それはそれでときめく。ロック好きだから、バンドと言われると、さらにブチ上がる。でも、二人組というのは、それはそれで特別だ。
リンリン・ランランにピンク・レディー、狩人と、小学生の頃に耳にした歌謡曲のアーティストはデュオが多かった。中学生になると、ふきのとうや雅夢などのフォークデュオも聴いたし、一方ではホール&オーツのような洋楽のアーティストも知った。洋楽、とりわけUKロックにのめり込んだ高校時代にはヤズーやワム!、ティアーズ・フォー・フィアーズがいた。OMDこと、オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークも基本的にはユニットだ。UKロックではエレクトロポップの分野に、多くのユニットが存在した、そんなイメージがある。
で、大学に進学して早々、おっ! と思ったエレクトロポップの新星が、本稿の主役ペット・ショップ・ボーイズ(以下、PSB)だ。
その脚光の浴び方は、なかなか派手だった。1986年、シングル「ウェスト・エンド・ガールズ」が、いきなりイギリスのチャートでナンバーワンになり、後にビルボードの全米チャートでも首位になる。当然、『ベストヒットUSA』等でも取り上げられ、日本でも話題になった。
絶望と希望をウィットや皮肉とともに歌う、「ウエスト・エンド・ガールズ」
絶望と希望をウィットや皮肉とともに歌う、いかにも英国的な「ウエスト・エンド・ガールズ」は、じつは2年前に彼らのデビュー曲としてリリースされていたがディスコでのマイナーヒットにとどまっていた。が、レーベルを移籍し、再レコーディングされた新バージョンにより、このデュオ―― ニール・テナントとクリス・ロウ―― は、華々しい成功をつかむことになる。
デュオにも色々あるが、奇妙なバランスのデュオだなあ…… と、いのうが同曲のMVを見たときの第一印象。ニールはいかにもフロントマンといった佇まいで、スーツとコートを長身にまとい、ビシッと決めている。対するクリスは、ほぼほぼ仏頂面で、ニールの後に控えており、リップシンクでコーラスを入れる素振りさえ見せない。影が薄い? 確かに、MV内にはクリスが半透明になる場面もある。が、影が薄いというより、むしろガラの悪い守護天使的!? いずれにしても、どこかミステリアスに映った。
売れるようになってメディアに露出し始めると、役割分担もなんとなく見えてくる。スポークスマンはやはりニールだ。音楽誌の記者をしていた経験もある人だから、インタビューに対しても理知的に答えるし、ユーモアのセンスもある。
対して無口なクリスの主要な役割はトラックメイキング、ということになる。ライブでもシンセサイザーの前から動くことはない。ダンサーを引き連れて歌い、動き回るニールとは好対照だ。
アンニュイなエンタテイナーにして詩人であるニールと、黒子のように振舞いつつ印象的なメロディを作り出すクリス
思うに、デュオの魅力というのは、このようなバランスの妙にあるのではないだろうか。1体1なら各々のキャラも立てやすい。そのうえで、“1+1” が2以上になるような、そんな面白さ。PSBの場合は、アンニュイなエンタテイナーにして詩人であるニールと、黒子のように振舞いつつ印象的なメロディを作り出すクリスの才能の融合。それが答えを2以上のものにしているように思える。
それにしても、彼らの息の長さには驚かされる。デュオは仲違いが決定的になったら解散できてしまうし、短命の場合も少なくない。が、PSBはデビュー以来39年にわたり、分裂することなく活動を続けている。彼らのデビューはニール30歳、クリス25歳のときで、ポピュラーミュージックの世界では比較的遅咲きの部類だが、エゴをコントロールできる大人の年齢であったことも幸いしたのかもしれない。
2023年6月21日、そんな彼らのシングル曲を全網羅した『スマッシュ〜ザ・シングルズ1985-2020』がリリースされる。CD3枚組、プラスBlu-ray2枚の豪華版だが、ヒット曲満載でこれはなかなか壮観だ。39年というデビュー後の活動の長さはもちろんだが、つねにポップシーンの最前線に居続けたことにも驚かされる。
ここに収められている初期のヒット曲で、こちらも風刺が効いた「オポチュニティーズ」の一節を引用して、本稿を締めくくろう――
――「俺は頭がいいし、おまえはルックスがいい / 一緒に大金を稼ごうぜ!」
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2023.06.21