2月11日

イカ天「いかすバンド天国」テレビの中に潜む音楽の本質と審査員たちの眼識

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イカ天「いかすバンド天国」80年代の終わりに番組から放たれた有り余る熱量

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バンドブームの集大成「いかすバンド天国」は音楽の多様性を示してくれた

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コンテストの原則を飄々と跳び越えた審査員の眼識と主観


前回のコラム『イカ天「いかすバンド天国」80年代の終わりに番組から放たれた有り余る熱量』では、 『三宅裕司のいかすバンド天国』(以下イカ天)が時代の終わりに放った熱量、そしてこれが、音楽の多様性を帯びた80年代の終わりに相応しいアマチュアバンドたちの DIY精神によるものだったという点に触れてみた。

周知の通り、イカ天は土曜日の深夜に生放送されていた―― 厳しい審査により、その日の収録に登場する出演バンドの中からイカ天キングが選出され、5週勝ち抜きでメジャーデビューできるというのが、この番組の目玉であった。

そして、吉田健氏、伊藤銀次氏をはじめとするポップミュージック、ロックンロール、様々な音楽に精通する審査員たちの眼識によって、多くの優れたバンドが輩出された。しかし、その反面、審査員たちの主観的な好みが明確に打ち出されていた点も興味深かった。例えば、吉田健氏に至っては、カブキ・ロックスの演奏に対して――

「お前らみたいのが売れたら、これじゃ真面目にやってるバンドが報われないよね」

―― という超辛口のコメントを事もなげに発していた。コンテスト番組の原則である「公平な審査」というラインを飄々と跳び越えているところが面白い。

審査員の評価がすべてではない、視聴者こそが本当の審査員!


こうした番組の面白さから、審査員が高評価したバンドだけが素晴らしいのではないことも知った。僕は「ブラウン管の前にいる視聴者こそが、本当の審査員であり、当事者として番組を楽しんで欲しい」というメッセージとして受け取った。その証拠に、酷評されたバンドの中には GLAY のように国民的なアーティストになった例もある。

審査員受けが悪かったバンドでは、GO-GO3が好きだった。今なお、ロック系クラブイベントでよくかかっているキラーチューン「THE WILD ONE」はイカ天出演後にミニアルバムに収録されリリースされている。彼女たちも番組出演時には、完奏できずワイプの中へ消えていった。これは、ものすごく意外だった。

もちろんイカ天キングとして勝ち続けデビューを果たし、現在に至るまで安定した人気を誇るバンドもいる。その代表格が BEGIN ではないだろうか。

同番組で演奏し、審査員から大絶賛を受けた「恋しくて」でデビュー。この曲は日産自動車の CMソングにも抜擢され、彼ら自身の最大のヒット曲になる。初代グランドチャンピオンだったフライングキッズと同じく群を抜いた歌唱力と演奏力を持った BEGIN のその後の活躍は、まさにサクセスストーリーそのものであった。

他にもジャンルレスなバンドの出演によって、当時の視聴者は十人十色、印象に残っているバンドは異なると思う。正統派ロックの様式美を徹底したマルコシアス・バンプやノーマ・ジーン、RABBIT など、メジャーのレコード会社が主導であった音楽シーンに相応しいルックス、テクニックを兼ね備えたバンドが続々登場した。

深夜枠ならではの自由な音楽番組、だからイカ天は面白い!


これとは対照的に競泳用水着とゴーグル、これにマントを羽織って登場し、「スイスイスイスイ、スイーマーズ♪」と叫ぶ、そんなバカバカしさとインパクトで語り草になったバンドもいた―― バンドという形態をとっかかりにしながらも、インパクト、演劇性など… 様々な要素が絡み合ったエンタテインメントを理屈抜きで楽しんでしまおうという深夜枠ならではの自由さがイカ天には潜んでいた。

例えば、宮尾すすむと日本の社長もそんなバンドの一つだ。当時なら下北沢、高円寺あたりの燻ぶった場末の居酒屋辺りの切なさを感じさせる独特のグルーヴ。色濃くダメダメな心情を歌う姿も印象に残っている。彼らの代表曲「二枚でどうだ!」は、こんな歌詞だ。

 久しぶりねと その後は
 矢もたてもたまらず

 彼女は言った 今夜はあぶない
 よーしわかった 二枚でどうだ!

やりたくてガマンできないのに、彼女は、今夜は危ないという。それなら、コンドーム2枚重ねるからお願いします! という内容の歌詞。土曜深夜に相応しいこんなグルーブ感を、メジャー感全開のバンドと共に楽しめる番組なんて、イカ天以外ありえなかった。そこには煌びやかなメインストリートと場末の裏通りが共存していた。

テレビという枠の中で多様化したシーンを総括した「いかすバンド天国」


また、バンドと審査員の橋渡し役として、的確に司会進行を務めた三宅裕司氏のキャラクターも、無論イカ天のひとつの顔であった。バンドを励まし助け、常に狂言回しに徹したその存在が大きかったことを改めて実感する。

審査員、バンド、司会者の明確な役割と関係性… 視聴者も当事者として番組に参加できるという手法によって、イカ天は大きな人気を呼んだ。テレビというエンタテインメントの中にありながら、そこに潜む音楽の本質に目を向けた確かな眼識が、その膨らみ切った熱量と共に80年代の終わりに多様化した音楽シーンを総括したのである。

※2018年9月29日に掲載された記事をアップデート


2019.12.07
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