5月23日

田原俊彦「騎士道」阿久悠が引き出した硬派な魅力〜アイドルから大人の男へ

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いわば “青春万華鏡” 田原俊彦の歌にあるきらめき


今から5~6年前のことだが、とある書店が “少女漫画コーナーの本の置き方が独特すぎる!” ということで話題になったのを皆さん覚えているだろうか。この書店では、少女漫画を「恋愛(愛される)」「恋愛(追いかける)」「愛に性別は関係ない」などとテーマ別に置いてあり、そのことがSNSで反響を呼んだのだ。私は少女漫画をあまり読まないので、このような本屋に言っても、目的の本を探し出せない迷宮にハマる自信があるが…(笑)。

こういった置き方をレコード屋さんでやったらどういうことになるだろう。小分類で「片想い」「純愛」「禁じられた恋」などのコーナーを設置してみるのも面白そうだ。ただ、私が思うには、こうした恋愛ジャンル別での売場展開をイメージした時に、一番しっくりくるのは田原俊彦の歌だと思う。彼は、少女漫画から飛び出してきた王子様のようだけど、母性本能をくすぐる少年っぽさがあって、そしてちょっぴりセンチメンタル。開いたページによって色々な表情を見せてくれるけど、やっぱりそこに居るのは紛れもない田原俊彦な訳で。同じ時代の松田聖子の歌がそうであったように、そんな80年代初期の田原俊彦の歌には、“青春万華鏡” と言ってもいいようなきらめきがあった。

田原俊彦に訪れた転機、阿久悠が初めて詞を提供した「騎士道」


時は1984年、田原俊彦に転機が訪れる。それまで、宮下智、三浦徳子、小林和子といった女性作詞家陣が提供した曲を歌うことが多かった田原俊彦であるが、デビュー5年目を迎えるこの夏、彼の新曲の作詞に、巨匠・阿久悠が名乗りを上げたのだ。

“80年代の青春万華鏡” 田原俊彦と、“70年代歌謡界の巨人” 阿久悠の初顔合わせは果たしてどのような化学反応を起こすのか。これは80年代アイドル界における一大事件と言っても過言ではない。この曲の発売にあたっては、キャニオンレコードも力が入っていたのか、初回生産分はレコード盤の表面にジャケット写真が写し出されたピクチャーレコードとしてリリース。

注目のタイトルは「騎士道」。漢字3文字の曲というと、Charの「闘牛士」なんかが思い出されるが、アイドルの曲では珍しい。

ザ・ベストテンでこの曲が初登場した際、黒柳徹子さんから「騎士道のイメージ」を尋ねられたトシちゃんはこう答えている。

「そうですねー、このタイトル僕も、硬派でね、すごく気に入ってて、まあこの歌に関して言えばね、ひとりの女性を永遠に愛してね、守り続ける “ナイト” って言った感じですね」

デビュー5周年を迎え、アイドルから大人の男へ脱皮を計ろうとしている田原俊彦本人もお気に入りの一曲だったが、結果的にこの曲が阿久悠としては最後のオリコン週間チャート1位獲得曲となった。

作曲はつのだひろ、高密度でスパニッシュなイントロ


騎士道の作曲は、これもまた田原俊彦とは初絡みとなる、つのだひろ。高密度でスパニッシュなイントロに続いて聴こえてくる、彼のマイルドでナイーブな声質。このコントラストが絶妙で、歌い出しからぐっと引き込まれる。

 乙女よ きみの微笑みなら
 光も恥じ入るだろう
 花さえそっとうつむく

阿久悠の詞でよく見られる物のひとつとして、このような “女性に対する称美” があると私は考えている。例えば、沢田研二の「OH!ギャル」だったり、郷ひろみの「素敵にシンデレラ・コンプレックス」だったり。しかし、騎士道では、そうした曲にありがちな官能的な方向には流れずに、逆に、硬派で凛とした方向に展開しているのが特徴的だ。その風情は、どことなくロミオとジュリエットをも連想させる。

 一輪の高嶺の花に
 熱い想いと未来を賭ける
 身の程も知らないやつと
 指をさされて ひるむぼくじゃない

これまでのシングル曲には無かった、シリアスで頼もしいその姿。作詞家・阿久悠は彼の新しい魅力を引き出す事に成功したのではないだろうか。

それまでの作詞家陣が提供してきた詞は、どちらかと言うと「♪君に薔薇薔薇ハートは赤い薔薇」とか「♪1本でもニンジン ニンジン」とかいった、語感重視の物が多く、ストーリー性は薄かった。しかし、阿久悠が田原俊彦に提示した硬派路線は、等身大の彼が、一途な眼差しでひとすじの愛を貫く、そんな一本筋の通った男の姿だった。そんな彼の凛々しさに胸キュンとなった女性ファンは多かった。その結果、この騎士道は売上こそ30万枚に届かなかったが、いまだに女性人気が高いのも頷ける。

第2期田原俊彦のターニングポイントになった「騎士道」


さて、1984年から1985年にかけて、デビュー5周年を迎えたライバル達はそれぞれに節目を迎える。松田聖子は結婚し休養、近藤真彦はレコード会社移籍、田原俊彦はこの時期そういった明確なイベントが無いが、去る8月18日にリリースされたオールタイムベスト盤『オリジナル・シングル・コレクション 1980-2021』のDisc.1のラストを飾る「顔に書いた恋愛小説」までが第1期と見なすことができると思う。

その理由としては、音楽面ではDisc.1のラストで「アイドル歌謡期」が終了し、Disc.2以降で歌謡曲には収まらない方向で音楽的な広がりが見られる点。そして歌詞の面では、Disc.2以降でいよいよ阿久悠や松井五郎が本格参戦し、それまでの語感重視のDisc.1から、ストーリー重視のDisc.2へ遷移していく点。この2点において節目の時期という印象があるからだ。「顔に書いた恋愛小説」のひとつ前に位置するこの「騎士道」はそんな第2期田原俊彦を占う試金石として、ターニングポイントになった1曲だった。

さてさて、このコラムを書きながら「恋愛ジャンル別に商品が分類されているレコードショップ」があれば実際に行ってみたいなぁ、と思った私であるが、そんな“80年代の青春万華鏡” 田原俊彦が届けてくれた、時には派手に弾けて、時には哀愁漂う… これらのハイクオリティーなラブソング群は、同時期の松田聖子の名盤と同等に、再評価をされて良いと思う。そのためにはアルバム曲やカップリング曲も含めたサブスク解禁がどうしても望まれるところだ。

でもやっぱり… あの、騎士道の “初回盤限定ピクチャーレコード” も捨てがたいんだなぁ!

特集 田原俊彦 No.1の軌跡



2021.08.23
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カタリベ
1972年生まれ
古木秀典
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