「チャールストンにはまだ早い」高嶺の花を追い成長する3分間のドラマ
田原俊彦の楽曲にはいつも「年上の女性」が見える。しかもスタイル抜群、薔薇のように華やかなオーラを纏った絶世の美女だ。
17枚目のシングル「チャールストンにはまだ早い」でも、プードルを連れ、街をシャナリシャナリと歩く美女が登場する。
この曲は12インチ版でも発売され、そこではセリフがついている。ぜひ、トシちゃんの甘い声で脳内再生していただきたい。
偶然街角で会った人は
ハリウッドの女優のように豪華だった
マリリン・モンローだって勝てやしないさ
彼女の気を引くためだったら
どんな男だってエンパイヤ・ステートビルから飛び降りるね……
くっ、超スイートではないか! このアメリカンな褒めて褒めて褒めまくる世界観は、「セクシーユー(モンローウォーク)」や「マイレディー」などを歌ったジャニーズの大先輩、郷ひろみの褒め殺し歌謡と通ずるものがある。
曲を通して見えてくるのは、高嶺の花に笑顔であしらわれつつも、駆け引きや妄想を楽しんでいる青年の姿だ。
他のジャニーズソングと聴き比べてわかるチャールストンの面白さ
ちなみに、この「チャールストンにはまだ早い」と同時期(1984年1月~3月)、ヒットしていたジャニーズソングは次の2作品。
「つべこべ言わずに 俺をただ抱きしめていろ」と好きな人に命令口調の「一番野郎」(近藤真彦)、そして「吹き飛ばすぜ哀しみ 抱かれてみろよ」というこれまた強気の「サムライ・ニッポン」(シブがき隊)だった。
マッチ、シブがき隊(白黒はっきりオレオレな恋愛観)とトシちゃん(友達以上恋愛未満でも十分楽しめる恋愛観)のキャラクターの違い、そして10代と20代の鼻息の荒さの差が見事に出ていて、とても面白い。
「チャールストンはまだ早い」の作詞・作曲を担当した宮下智は、5年後(1989年)少年隊の楽曲「まいったネ今夜」を作っている。こちらはジャズのメロディーや歌詞の世界観など、「チャールストン」のエキスを感じ、続編的要素がなきにしもあらず。
黄昏のチャールストンの続きの夜はどうなる? 2曲続けて聴き「あれれ、やっぱり手玉に取られてる!」なんて妄想するのも、最高に楽しい。
曲を「魅せる」ことに成功した間奏のショータイム
この曲が革新的なのは間奏の長さである。間奏といっても、ただの1番と2番のツナギにあらず。大谷和夫による都会的で明るいアレンジと、トシちゃんのダンスの大きな見せ場なのだ。
大谷和夫といえば、西城秀樹の「YOUNG MAN(Y.M.C.A.)」から「アンパンマンのマーチ」まで幅広く彩る音の魔術師。「チャールストンはまだ早い」もそうだが、〝さあ、これから何かが始まるぞ〟と華やかなブラスで煽ってくる感じが本当に心地いい。
粋なAメロを歌い切ったあと、「ドンドンドドン……」というパーカッションの音に乗せて始まる、もうひとつのショータイム。そこに打楽器のように入る、「フォー!」「ハッ」「カモーン!」というトシちゃんのシャウト。ファンから上がる黄色い歓声も込みで、すべてが楽器のひとつとなり、ステージを作る興奮!
唸らずにはいられない田原俊彦の強いプロ意識と超絶テクニック
振付けは2パターンあるが、彼が崇拝するマイケル・ジャクソンの「スリラー」をリスペクとしたAパターンは、もはや伝説。
左右の細やかな移動はもちろん、脚を上げたりしゃがんだり、ダンスの運動量はすさまじい。ところが、脚は上がっても息はほとんど上がらないトシちゃん。「昨日映画で見た女優に……」とサラリと甘く歌に戻る緩急がたまらない!
年を取り、改めて「チャールストンはまだ早い」を観直すと、トシちゃんの強いプロ意識と超絶テクニックに唸る。そして、それをどれだけさりげなく魅せられていたかに気付くのだ。
20代半ば、青年から大人に進化した彼のパフォーマンス力を、短時間で堪能できる奇跡の3分間。田原俊彦・第一章のターニングポイントであると同時に、ひとつのミュージカルを観たような気になれる、80年代アイドルポップスのエポックメイキングである。
特集 田原俊彦 No.1の軌跡
2021.08.22