8月12日

田原俊彦「さらば‥夏」夏の終りのトシちゃんは常に哀愁を漂わせていた

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過去のヒットチャートを眺めていると、その時代のことが鮮明に想い出されるというタイムマシン効果がある。それは新聞のラテ欄も同じ。個人的にはトップニュースや社会面の記事よりもリアルに時代を感じるのは、それだけ音楽やテレビに寄り添って生きて来たためと思われる。多感な時期ならばそれはなおさらのことで、自分の10代後半とピッタリ重なる80年代前半のチャートはあまりに愛おしすぎる。

18歳の夏を過ごした1983年の7~8月などは特に想い出深い。同時上映だった映画主題歌、「探偵物語」の薬師丸ひろ子と「時をかける少女」の原田知世が競い合う中、近藤真彦が「ためいきロ・カ・ビ・リー」でトップに躍り出た7月の終りの週では、村下孝蔵の「初恋」や上田正樹の「悲しい色やね」もトップ10に位置している。

「ためいきロ・カ・ビ・リー」は東宝『嵐を呼ぶ男』の主題歌だった。8月に入ると松田聖子が「ガラスの林檎」でトップを奪取し、そこにピッタリつけていたのが、アイリーン・キャラの「フラッシュダンス」で、この時代で一番の洋楽のビッグ・ヒットである。そして3位がマッチという布陣。

と、ここまでまだ名前が出ていなかった田原俊彦の新曲が、83年8月12日リリースの「さらば‥夏」であった。当時は『ザ・ベストテン』を見ていても明らかな、田原俊彦、松田聖子、近藤真彦の3強がチャートを賑わしていた時代。たのきんトリオならぬ “た○きんトリオ” だね、などと仲間内では非常にくだらない会話を交わしていたことを30数年ぶりに今ふと思いだしたわけで。

女性読者が多いリマインダーでは下ネタは厳禁ですよね。これは申し訳ない。そんなわけで、8月22日付のオリコンウィークリーチャートでは、「さらば‥夏」が首位に躍り出て、2位が聖子、3位がアイリーン・キャラのトップ3に。ちなみに「フラッシュダンス」は9月に入ってノーランズ以来の洋楽1位を記録している。

「さらば‥夏」は田原俊彦にとって、デビュー曲「哀愁でいと」に次ぐ外国人による作品で、しかも今回はポール・アンカの書き下ろしという話題作であった。そのことで選定基準から外れてしまうレコード大賞はそもそもなかったとしても、歌謡大賞のグランプリを獲得したのには少々驚かされたが、そのくらい強いアーティストパワーがあったという証拠である。作詞が岩谷時子というのも意外な人選だった。岩谷は前年に郷ひろみ「哀しみの黒い瞳」を手がけてはいたものの、男性アイドルへの詞の提供はこの時期珍しい。

堅苦しいのでここからはトシちゃんと書かせていただく。トシちゃんのディスコグラフィーを見てみると、毎年きちんと春夏秋冬に則していたシングル楽曲で、夏の終りから秋にかけての時期の作品に特に秀逸な曲が多く見られるような気がする。

それはきっと、やんちゃな男気を前面に出して突き進んでいたライバルのマッチに対して、少し年上のトシちゃんはダンサブルだったりバラードだったり、若い頃からマイルドな大人の香りを漂わせていたことに起因すると思うのだ。

デビュー年の80年は「ハッとして!Good」、81年は「悲しみ2ヤング」、82年は「NINJIN娘」、そしてこの「さらば‥夏」。夏の終りのトシちゃんは常に哀愁を漂わせていた。当初は本人が歌うことに抵抗を示したという無駄に明るい(?)「NINJIN娘」さえも例外ではなく、過ぎ去りし夏への想いが巧みに歌い込まれている。

四季の変化が著しい日本人の暮らしで、賑わいの夏が去り、センチメンタルな秋が訪れる頃はなんともいえない気分になる。あの頃、その気持ちを代弁してくれていた歌謡曲の世界で、トシちゃんの歌の存在は絶大であった。昨今、彼の歌に再評価の声が高いのもそこだろう。

名実ともに大人の男となったトシちゃん、いや田原俊彦が今「さらば‥夏」を歌ったら、さらに味わい深く聴き応えがあるに違いない。あの時のポール・アンカは42歳で今の田原よりずっと年下だが、岩谷が詞を書いたのは67歳の時であったのだからまだまだ。山下達郎「さよなら夏の日」や稲垣潤一「夏のクラクション」などと共に、晩夏に聴くジャパニーズ・スタンダードソングとして定着してゆくべき名ナンバーなのだ。


2019.08.12
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カタリベ
1965年生まれ
鈴木啓之
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