“英国美青年による禁断の同性愛を描く『モーリス』が4Kで復活!”
2018年の春先、この広告を見た時には心が踊った。
ボーイズラブワールドを心から愛する80年代の全腐女子(当時は “やおい” などと呼ばれていた)において、心の金字塔映画がリバイバル上映というニュースだったからだ。しかも初の無修正版!
もちろん観に行った。30年前、東京・シネスイッチ銀座ですれ違ったであろう同志がたくさんいた。嬉しかったなあ。
しかし、私は若いヒュー・グラントを観ながら、別の映画のことを思い出していた。
『モーリス』に先立つこと3年、同じ英国のパブリックスクールを舞台にした、『モーリス』の布石的傑作『アナザー・カントリー』(通称 “アナカン”)である。
“そんなマイナーな映画知らないよ!” と仰る方、いやちょっと待って。スタイル・カウンシルを聴いていたなら “アナカン” のポスターは見たことがあるはず!
と言うのは、1985年に全英チャートNo.1を獲得した彼らの2ndアルバム『アワ・フェイバリット・ショップ』のジャケット写真に使われているからだ。
ポール・ウェラーとミック・タルボットのちょうど真後ろに貼られているのがそれ。
当時はポスターの意味について、ポールとミックの同性愛の噂をシャレにしたものでは? とか、ポスターの主演俳優、ルパート・エヴェレットがポールと友達だから? などと憶測が飛び交った。真相は不明である。
1985年夏に日本公開。今は無き東京・渋谷PARCO パート3に何回通っただろう。10回近くかも。未だに全てのシーンが、映画館の椅子の硬さと共に順を追って蘇ってくる。
内容は、30年代の英国、パブリックスクールで特権階級として青春時代を過ごし、挫折してソ連に亡命したスパイ、ガイ・ベネット(実在のスパイがモデル)の回想録だ。そして、その挫折へのプロセスがこの映画のテーマ。そう、ガイはゲイなのだ。
同性愛が公然と発覚しそうになった時、相手をかばって一人で罰を受け、校内の出世を棒に振ってしまうガイ。純愛と規律の市松模様のようなストーリーが、オックスフォードロケの美しい風景、30年代ブリティッシュトラッドファッション、最高のクイーンズイングリッシュとともに繰り広げられていく。陰影と憂いに満ちた映像描写に加え、出てくる少年も青年も皆美しく、何度見ても飽きなかった。
校内の出世競争に破れたガイが、泣きながら親友の共産主義者・ジャド(コリン・ファース)に語る台詞が胸を打つ。
「君の主義は友愛や人間愛に関しては平等だろうさ。でもこと恋愛になると差別的なんだ。もう迷わない。宣言しよう。僕は一生、女は愛さない。」
そんな映像を印象的に彩る音楽が、イギリスの愛国歌であり、イギリス国教会の聖歌である「祖国よ、我は汝に誓う(I Vow to Thee, My Country)」だ。
第一次世界大戦直後の1918年、グスターヴ・ホルストの組曲「惑星」より「木星」に外交官のセシル・スプリング=ライスが詞をつけて完成した。映画序盤、中庭で聖歌隊を中心に教師や生徒が歌い上げるシーンは、厳かなようで暗示的でもある。実は「アナザー・カントリー」というタイトルはこの曲の二番の歌詞からの引用だ。
歌はキリスト教徒にとっての二つの祖国を意味し、一番は英国自体、二番ではキリスト教における死後の世界である天国について言及しているそうである。
映画は、年老いたガイの「クリケットがしたい」という呟きで終わっていく。その言葉は裏切った祖国への愛、パブリックスクール時代への郷愁を感じさせて泣けるのだ。
彼にとって「アナザー・カントリー」とは一体どこだったんだろう? と、私はこれから先もずっと考え続けると思う。
『モーリス』が心の金字塔なら、“アナカン” は心のベストテン第一位だ。上映してくれるなら何だってする。こうなったら勢いで “アナカン” 4Kリバイバル上映しないだろうか?
毎日だって観に行きます! お願い!
2018.05.30
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