ニューアルバムといってもいい「NOVELTY SONG BOOK」
毎年恒例となっている3月のナイアガラDAY、2022年の『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』40周年のあと、2024年は間違いなく『EACH TIME』40周年としても、2023年はいったいどんな趣向で?
―― と思っていたら、ナイアガラワールドに欠かせないノヴェルティソングと発表されて心躍った。
初めて音盤化される提供曲のセルフカヴァーに、未発表の新曲まで収録されると聞けば、期待せずにはいられない。『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』と題された2枚組。
再注目株の新曲、「ゆうがたフレンド(USEFUL SONG)」
DISC-1は本人歌唱、DISC-2は提供作品集という贅沢な構成になっており、全曲未発表音源だという『NOVELTY SONG BOOK』はもう “オリジナルのニューアルバム” といってもいい。
「NIAGARA ROCK'N'ROLL ONDO」で始まるDISC-1では、新曲「ゆうがたフレンド(USEFUL SONG)」が再注目株といえる。2005年暮れ、最後に書き下ろされた作品だそう。
親交の深いムーンライダーズの鈴木慶一がゲスト参加し、半世紀前に『大瀧詠一ファースト』で共演していた伝説のユニット “冗談ぢゃねーやーず” が復活する形となった。2021年の『風街オデッセイ』のステージ、はっぴいえんどのパートで鈴木が「12月の雨の日」のヴォーカルを務めていたシーンが思い出される。
市川実和子へ提供された「ポップスター」や、うなずきトリオへの「うなずきマーチ」、松田聖子に書かれた「いちご畑でつかまえて」などが大滝詠一のヴォーカルで聴ける幸福感はたまらない。
「ホルモン小唄」は知る人ぞ知る、大瀧がファンを自認していた小林旭のために書いたもののお蔵入りになっていた、まさしく “幻の作品”。細野晴臣がプロデュースし、ティン・パン・アレイとのセッションだった。作詞は「自動車ショー歌」の星野哲郎御大である。これが聴けるだけでもナイアガラーは随喜の涙モノなのだ。
ラストは植木等が歌った『ちびまる子ちゃん』の主題歌「針切じいさんのロケン・ロール」で賑々しく。原曲のシェブ・ウーリー「ロックを踊る宇宙人」との聴き比べも楽しい。
布谷文夫「ナイアガラ音頭」からのスタート
DISC-2の『NIAGARA ONDO BOOK』は、1978年のアルバム『LET'S ONDO AGAIN』以来となる音頭モノとノヴェルティソングのオンパレード。当然の如く布谷文夫「ナイアガラ音頭」からのスタートとなる。先頃アナログ7インチ盤がリリースされた金沢明子「イエロー・サブマリン音頭(特別変)」や、ドラマ『あんちゃん』(日本テレビ系)から生まれた角川博「うさぎ温泉バラード」は、「スーダラ節」の作者である萩原哲晶のアレンジによるもの。ノヴェルティソングのレジェンドとの仕事は、萩原が世を去った後のクレイジーキャッツ久々の新曲「実年行進曲」に結実する。今回は “ぶちゃむくれバンザイ三唱ヴァージョン” が収録されている。
リスペクトが捧げられた美空ひばりにぜひとも歌って欲しかった傑作「風が吹いたら恋もうけ」は、中原理恵による “ハチャメチャ・ヴァージョン” に加え、小高桂子の歌唱でも聴ける。小高の歌は「アンアン小唄」ならぬ「あんあんストリート」も収められている。作詞を担当した伊藤アキラの才能が爆発した逸品なり。
ほかにも「ビックリハウス音頭」や「うなずきマーチ」のアナザーテイクは、ことに興味深い。細川たかしが1992年にカヴァーした「Let's ONDO Again」は “河田為雄ミックス” ヴァージョンを収録。河田氏は元・東芝EMIの辣腕ディレクターである。念のため。
さらには、トニー谷に宮城まり子、クレイジーキャッツに三波春夫と、昭和の芸能史に燦然と輝くスターがズラリと居並んだ、泣く子も黙る黄金のラインナップも収録。これを聴けば、シティポップに代わる新たなブームが到来することだろう。ノヴェルティソングの巨匠に感謝。
《グレート・ティーチャー大瀧》あとは令和の才能ある若者たちにお任せください。
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2023.03.21