2023年 3月22日

シティポップの決定版!松原みき「真夜中のドア」だけじゃない “エモい” 名曲たち

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「真夜中のドア」とシティポップの再評価


令和のシティポップ再評価の起点が松原みきの「真夜中のドア〜Stay With Me」であるとするならば、今多くの人が求めるシティポップの魅力はじわじわとくる高揚感だ。つまり、最もわかりやすい “エモい” という感覚だ。ソウルやシンガポール、マレーシアといったアジア各国のクラブでキラーチューン。その盛り上がりは周知の通り。独特な高揚感と共に、洋楽的なメロディラインがこの盛り上がりの理由だという解釈をいくつも見て、それには納得するが、その反面、この楽曲から極めてドメスティックな匂いを感じずにいられないのは当時のオールドファンだけだろうか。

「真夜中のドア〜Stay With Me」のシングルがリリースされたのは1979年11月、そしてこの曲が収録された彼女の初のオリジナルアルバムである「POCKET PARK」のリリースが80年の1月。まさに時代の転換期だった。



この時期を振り返ってみると、“ニューミュージック” という新ジャンルが台頭してきた時期と重なる。演歌、アイドル、(まだ市民権を得ていない)ロック、ニューミュージックというのが当時のざっくりとしたジャンル分けだった。これを総じて歌謡曲と括る大雑把な時代でもあった。

ニューミュージックは、70年代的に大きなシェアを占めていた叙情派フォーク、かぐや姫、イルカ、グレープなどから派生した当時のニュージャンルで、庶民的というか、飾らない日常の中にある湿り気が人気の大きな要因だったように思う。そして、この枠から大きくはみ出したシンガーソングライター系の作品をシティポップと形容した。

この “枠から大きくはみ出した” という部分は、時代の変化に大きく起因している。70年代から80年代へ、人々の生活様式が大きく変わっていく中で、豊かさに慣れ始め、背伸びしたアーバンなライフスタイルを渇望するようになったことに大きく関係してくる。

これまでは日常から逸脱した、手の届かない場所にあった風景に手が届きそうと思えるようになった心理的な状況を、見事具現化していたのがシティポップというジャンルだった。つまりニューミュージックの描く、飾らない日常の中にある湿り気とは対極の世界観だったのではないだろうか。

シティポップを象徴するLight Mellowという言葉


話を「真夜中のドア〜Stay With Me」に戻そう。ここで描かれる歌詞の世界観を紐解いてみても、”真夜中のドア“ という日常から逸脱したパワーワードが洒脱なメロディラインと共にじわじわと脳内を駆け巡り、アーバンな空気感に包まれる。これが、日本独自のジャンルであったシティポップならではの魅力だ。そして、この80年代の始まりを象徴するようなグルーヴが令和の時代に新たな解釈をもたらした。

シティポップを象徴するLight Mellowという言葉がある。直訳すれば “軽くなめらか” となるが、これが言い得て妙で、この要素があってこそに、音楽が人々の渇望とコミットして音楽シーンに染み込んでいく。「真夜中のドア」にしてみてもこの要素無くして再評価には繋がらなかっただろう。

しかし、このなめらかさは、一朝一夕のものではない。70年代に音楽を自由な感性と洗練された世界観、巧みな技術を持ち合わせて日本の音楽シーンという土壌でクリエイトしてきた先人たちの源流がなくては確立できないものだった。

シティポップの物語を楽しめるコンピレーション


今回リリースされた2枚組のコンピレーションアルバム、『シティポップ・ストーリーCITY POP STORY〜Urban&Ocean』のUrban Sideには「真夜中のドア」も収録されている。そして、ここにたどり着くまでの先人たちの軌跡をしっかりと踏まえ、その流れを明確に感じとることができる。そして、「真夜中のドア」の向こう側に何があったのかというシティポップの “物語” を十二分に楽しむことができるだろう。

オープニングを飾る吉田美奈子「LIGHT’N UP」やEPO「土曜の夜はパラダイス」など、「真夜中のドア」とは違った高揚感がたまらない。ファンキーディスコのエッセンスを織り交ぜながらも日本独自のオリジナルとして豊さへ向かう時代のワンシーンを見事に切り取っている。そして、「真夜中のドア」の向こう側という観点では、溢れ出すロックエッセンスをソフィスティケートさせた伊藤銀次「BABY BLUE」や杉真理「スクールベルを鳴らせ!」が収録されているのも個人的には嬉しい限りだ。



昨今限りなく拡大解釈されるシティポップだが、ここに収録されている楽曲には、Light Mellowという源流がしっかりとあり、そこから派生しながら日本のポップミュージックのフォーマットを作り上げた時代の潮流を感じ取ることができるだろう。


■ シティポップ・ストーリー CITY POP STORY ~ Urban Side 収録曲
1. LIGHT'N UP / 吉田美奈子
from album『LIGHT'N UP』(1982)
2. FANTASY / 中原めいこ
from album『2時までのシンデレラ-FRIDAY MAGIC-』(1982)
3. 土曜の夜はパラダイス / EPO
from album『VITAMIN E・P・O』(1983)
4. サブタレニアン二人ぼっち / 佐藤奈々子
from album『Funny Walkin'』(1977)
5. クリスタル・シティー / 大橋純子&美乃家セントラル・ステイション
from album『CRYSTAL CITY』(1977)
6. 中央フリーウェイ / ハイ・ファイ・セット
from album『LOVE COLLECTION』(1977)
7. 真夜中のドア~Stay With Me / 松原みき
from album『POCKET PARK』(1980)
8. RIVER'S ISLAND / 杉山清貴&オメガトライブ
from album『RIVER'S ISLAND』(1984)
9. Just a Joke / 国分友里恵
from album『Relief 72 Hours』(1983)
10. バイブレイション / 笠井紀美子
from album『TOKYO SPECIAL』(1977)
11. レオニズの彼方に / 滝沢洋一
from album『レオニズの彼方に』(1978)
12. 街のドルフィン / 濱田金吾
from album『midnight cruisin'』(1982)
13. Dream In The Street / 池田典代
from album『DREAM IN THE STREET』(1980)
14. City Lights by the Moonlight / 惣領智子
from album『City Lights by the Moonlight』(1977)
15. 小さな宇宙 / 上田正樹
from album『PUSH & PULL』(1978)
16. HOLD ME TIGHT / ラジ
from album『HEART to HEART』(1977)
17. BABY BLUE / 伊藤銀次
from album『BABY BLUE』(1982)
18. スクールベルを鳴らせ! / 杉真理
from album『STARGAZER』(1983)

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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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