1985年は、テクノポップ、ニューウェイヴ等の流れがポップシーンの中である程度定着したような感があったと思います。ここでは落ち着いていた、という事にさせてください。
そんなある日、当時のワタクシ的必聴ラジオ番組であった坂本龍一の『サウンドストリート』を聞いていた時、なんとなくエレクトリックなんだけどソウルっぽくもあり、サンプリングやゲートエコーなどのエフェクトも有りといういわば「これまでに聞いたことが無い」サウンドが紹介されていました。
その曲は、スクリッティ・ポリッティのセカンドアルバムに先行して12インチシングルという形で発売された「ウッド・ビーズ」だったのです。その発売方法も斬新、サウンドもこれまた新鮮に感じられました。
その後に「アブソルート」「ヒプノタイズ」という2曲が発売され、いわゆる12インチ三部作が完成します(当時は高くて買えなかったのでエアチェックしたテープを聴きながらアルバムの発売を心待ちにしていました)。
そして待ちに待ったアルバム『キューピッド&サイケ85』が発売され、夢中で聴きまくりました。ソウルミュージックの鉄人であるアリフ・マーディンのプロデュース。80年代後半のサウンドにおいて大きな特徴であるデジタルシンセサイザーを大胆に取り入れたクリアなサウンドの他に、ゲートエコーなどの大胆なエフェクト、レゲエ、ダブといった様々なリズムが導入され、このアルバムはまさに85年という時代を代表する音作りを実現しています。
それにしても難解だったのが、リーダーたるグリーン・ガートサイド氏のキャラクターであります。彼の紡ぎだす歌詞に描かれた世界は、なんとなくラブソングのように聞こえるんだけれど、歌詞カードの対訳を見ると難解な単語が並んでおり、何を言いたいのかわからないのは自分の学が足りないからなのだろうか?
ボーカルスタイルはシルキーなファルセットボイスで、それを「マイケル・ジャクソンが大好きで影響されたんだ」などと答えてみたり、インタビューの記事などを読むと「僕は唯物論者なんだ」などと言った政治的、哲学的な発言も多く、何度読み返してもその真意がつかめない。
そんなインテリで気難しいお兄様が「こんな僕がポップな事をやる事に意味があるんじゃないか。だってポップにしなきゃ世の中に伝わらないだろ?」なんて言うんです。思春期真っただ中の青少年にグサグサ刺さるパワーワードの連続にクラクラしたのを覚えています。僕も当時はいい感じで中二病にかかっておりましたので、大いに感銘を受けたわけです。
前出の「アブソルート」や「ヒプノタイズ」のキラキラしたサウンドは、その後のポップシーンに大きな影響を与えるのですが、本人たちの活動は至ってマイペースであり、次作『プロビジョン』(1988年)の発売までに3年を要し、さらにその次作『アノミー&ボノミー』(1999年)まで11年も待たなければなりませんでした。
ちなみに初来日は2006年の事―― 1985年当時の美しき青年は髭を蓄え、ちょっとマッチョな印象のオジサマになっておりました。その間、彼に何があったのでしょうか。いずれにせよ悪いことではなさそうですが…。
2019.01.05
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