惜しまれつつ天に召されたアニソンの帝王、水木一郎
この日よ、来てくれるな、来てくれるな―― と念じていた日が、とうとう来てしまった。かねてより闘病中だった “アニソンの帝王” こと水木一郎アニキが、去る12月6日、惜しまれつつ天に召されていった。
悔しい。そしてこのとてつもない喪失感―― 菊池俊輔先生も渡辺宙明先生も、そして水木一郎アニキまでがそちらの世界におられるなんてずるい。悔しい。
よみうり大手町ホールにて堀江美都子さんとの共演で(そして豪華ゲストのサポートにより)催されたコンサート、『ふたりのアニソン』に出演されたのは、つい先日11月27日のこと。
つまりアニキは、亡くなる直前といっていいようなタイミングで私たちの前に姿を見せてくださり、そして最高の笑顔を見せてくださったのだ。きっと肉体的には、想像を絶するほど辛い状況だったと思うのに、ファンの気持ちに応えてくださり、私たちの前では辛さを隠して会心の笑顔。まさにヒーローを地でいっておられた。感謝しかありません。
アニソン・特ソン、持ち歌およそ1200曲!
アニキのアニソンデビュー曲「原始少年リュウが行く」(1971年『原始少年リュウ』オープニング)をリアルタイムで聴いていた世代である私たちは本当に幸せだと思う。以後、『超人バロム・1』や『マジンガーZ』や『侍ジャイアンツ』や『変身忍者嵐』や『バビル2世』を聴いていた当時3歳だか4歳だかの私のような子どもたちが、歌手名を意識して聴いていたはずもなく、後から気がつけば今日に至るまで半世紀以上聴き続けることになるアニソン・特ソンの大半は水木一郎アニキの歌う曲だったのだ。
何と言っても持ち歌およそ1200曲というのは半端な数字ではない。
いつしか「ゼェェェェ〜ト!」でお馴染みの「マジンガーZ」(1972年『マジンガーZ』オープニング)や、「V! V! V! ビクトリー!」の「コン・バトラーVのテーマ」(1976年『超電磁ロボ コン・バトラーV』オープニング)がアニキソングの代名詞となっていくのに対し、この「原始少年リュウが行く」は、男の子向けアニメの主題歌にしてはかなりセンチメンタルな曲であった。
しかしながらこの曲には、聴く者が年を重ねるにつれジワジワと滋味を感じさせるような底知れぬ魅力がある。“雄叫び開眼前” の、まだ甘やかさの残るアニキのウェットな歌声が、これまたイカすのだ。
そう、アニキといえば “雄叫び”、ということになるのだが、私は力強さだけではなく、そこに潜むアニキ独特の “男の哀愁” にもイカレていた。「ケイは生れた」「北の狼 南の虎」「はるかなる愛にかけて」「キャプテンハーロック」といった作品群にもそれがよく表れている。
改めて聴いてみるとその実、アニソン界の一方の雄であるささきいさおさんの剛胆な歌声に比べ、アニキの歌声には(後年の “雄叫び開眼後” の歌声にも)独特の “青年臭” があると気づく。ささきさんに「パパ」の風格があるのに対し、アニキの歌声はまさに「アニキ」と言いたくなる声質なのだ。
人生の哀感を歌い上げた傑作、「北の狼 南の虎」
先に触れた「北の狼 南の虎」は、巨匠・水島新司先生の野球漫画を原作とする夜8時の1時間枠アニメ『野球狂の詩』の中で、二週にわたる前後編での放送による「北の狼 南の虎」というひとつのエピソードのために書き下ろされた、破格とも言える存在の曲である。
作り手もまた破格で、作詞:橋本淳、作曲:中村泰士、編曲:萩田光雄という完全なる歌謡曲の布陣。さすがのアニキもいつもと勝手が違ったとみえ、レコーディングの際には中村先生からかなりシゴかれたようだが、その甲斐あって、しっとりとドラマティックに人生の哀感を歌い上げた傑作となった。
この「北の狼−」のストーリーは、不幸なキッカケで生き別れることとなった双子の兄弟が、全く異なる境遇で育ちながらも共にプロ野球の選手となって別チームに所属し、やがて対決する日を迎える。そしてそれを見守る二人の母の姿が―― といったもの。
歌詞の1番では兄目線で弟のことを、2番では弟目線で兄を思う心境を表現したこの曲を、情感をこめて歌い上げたアニキの歌声が見事だ。アニキがヒーローソングを歌う時は主人公になりきって歌っていたというが、スーパーヒーローではなく、生身の等身大の人間が主人公であるこの「北の狼 南の虎」のような作品世界を歌う時、“雄叫び” に隠れがちだったアニキの “青年臭” が、存分に活かされることになる。ふと、“雄叫び開眼前” の、「原始少年リュウが行く」の頃の声質でこの曲を聴いてみたい、などと詮無いことを思ったりもする。
アニキという呼び名は即ちアニソンキング
1972年に放送された『マジンガーZ』の挿入歌「Zのテーマ」の冒頭の歌詞、
人の命は尽きるとも 不滅の力
―― は、まさに作曲者である渡辺宙明先生の遺された作品群の存在感を謳っていると思ったが、今は更にアニキの歌声のことをも謳っていると実感している。しかしながら当分の間はこの曲を冷静な気持ちで聴けそうにない。まだまだアニキの命は尽きて欲しくなかったから。だからやっぱり悔しいのだ。
数年前、なんばHatchでのライブの時には、
「最近ますます声がよく出るようになってきてるんですよ」
―― と嬉しそうに語っておられたのに。まだ早すぎる。
でも、アニキには感謝しかありません。
今まで真摯にパワフルに歌い続け、私たちを元気づけ続けてくださり有難うございました。
今更気づいたのですが、アニキという呼び名は即ちアニソンキングだったんですね!
これからもアニキの歌声からエネルギーをいただきながら生きていきます。
心よりご冥福をお祈り致します。
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2022.12.26