渡辺宙明、アニソン・特ソンの神!
『マジンガーZ』『人造人間キカイダー』『秘密戦隊ゴレンジャー』『野球狂の詩』『宇宙刑事ギャバン』…というタイトルの並びを見て、ピンときたあなたはきっとそのスジのヒトでしょう。そう、全て渡辺宙明先生が音楽を担当された作品です。
1926年生まれの渡辺宙明先生は、1956年『人形佐七捕物帖 妖艶六死美人』でデビュー後、多くの映画音楽を担当されたのち、1972年の『人造人間キカイダー』をキッカケにテレビアニメと特撮番組に主戦場を移され、子供達に長く愛唱される多くの名曲を発表、90歳を超えたのちも2021年、戦隊シリーズの一作『機界戦隊ゼンカイジャー』の劇伴音楽を担当されるなど、健在ぶりを示していましたが、今年の6月23日に惜しまれながら逝去されました。
昭和のアニソン・特ソン好き、特にヒーローソング好きにとって渡辺宙明先生は、菊池俊輔先生と並んで二大神というべき存在なのです。
宙明サウンドといえばマジンガーZ。かっこよさの秘密は「2、6抜き短音階」
さて、宙明サウンドを語るときに素通り出来ないのが、やはり『マジンガーZ』の主題歌、「マジンガーZ」(1972年)でありましょう。
特にアニメ好きでなくとも、ある年代の男子であれば、
空にそびえる くろがねの城
… で始まるあの曲を知らない人はいますまい。
宙明サウンドのかっこよさの秘密が「2、6抜き短音階」にあることは、何度か直接先生により語られすっかり有名になりましたが、それがかっこよさを醸し出す秘訣であると共に、日本民謡の音階にも通じるところがあると伺い、「なるほど!」と思いました。
民謡というものは(以下想像を交えて書きますが)、支配者側ではなく支配される側の民によって “謡われた” ものだから、ただただ陽気なだけではなく、そこには「ツラいことも多いけど、それに負けずに歌でも歌って頑張ろうじゃないか!」という心意気がそのメロディーに窺える気がするのです。
幻の主題歌「Zのテーマ」
今や宙明先生のみならず、水木一郎アニキの代名詞とも言えるこの「マジンガーZ」ですが、実は当初、これとは別の曲がオープニング曲となる予定でした。
しかしその曲を聴いた東映サイドから「パンチに欠ける」という意見が出され、急きょ新たに作られたのが「マジンガーZ」だったのです。
この曲はある意味で宙明先生の、そして水木一郎アニキの代名詞的な曲になったのですから、「パンチに欠ける」発言は歴史を動かしたなぁ… という感慨もありますが、結果的に幻の主題歌となり、挿入歌として劇中でも度々使用されることになった「Zのテーマ」の方が個人的には好みのタイプの曲だったりもします。
ストレートに強さ・かっこよさを前面に押し出した感のある「マジンガーZ」に比べ、「Zのテーマ」には、“嬉々として戦いに臨んでいるわけではない、でも平和をもたらす為に頑張るしかないのだ!” という哀愁と覚悟を感じるのです。
追悼・渡辺宙明。生き続ける不滅のサウンド
ところでこの「Zのテーマ」を聴くたびに思い出すエピソードがあります。
それは徳間書店刊・ロマンアルバム『マジンガーZ』に宙明先生が寄せられたコメントなのですが、以下に引用させていただきます。
「(前略)『Zのテーマ』についてあるファンの女性から次のような話を聞かされた。彼女の友人のある女性が病気で他界してしまったのであるが、彼女は死の直前まで『Zのテーマ』を口ずさんでいたそうである。私にそのことを教えた彼女は「彼女はこの歌に勇気づけられ病気と戦っていたのでしょう。この歌は、悲しい時苦しい時に私たちの心の支えになってくれるのです。世の中に数知れぬほどの歌がありますが、こんなにも私の心に入ってきた歌は『Zのテーマ』だけです」と語った。私はその話を聞いて胸が熱くなり生きがいとはこういうものかと感じた。その話によって私も勇気づけられたのである。(後略)」
―― 今頃宙明先生は、その女の子と天国で手を取り合っておられると信じたいですね!
ところでこの「Zのテーマ」の冒頭の歌詞は以下の通り(ちなみに作詞は『子連れ狼』などの劇画原作者として著名な小池一夫先生)。
人の命は つきるとも 不滅の力 マジンガーZ
―― それはまさに、僕らの中に生き続ける不滅の宙明サウンドのことだと思います!!
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2022.09.27