5月16日

薬師丸ひろ子「メイン・テーマ」揺れ動く心、寄せては返す波のようなメロディー

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何十回と聴きたくなる歌、薬師丸ひろ子「メイン・テーマ」


何十回となく聴いても、不思議と「また聴きたい」と思える歌がある。そして、聴くたびに心が刺激され、昔の記憶がよみがえる。私が高校3年だった1984年5月に発売された薬師丸ひろ子の「メイン・テーマ」も、そのひとつだ。

1981年の主演映画『セーラー服と機関銃』の主題歌が大ヒットして、歌手としても鮮烈なデビューを飾った薬師丸ひろ子は、その後も主演映画の主題歌を歌い、音楽シーンでも存在感を高めてゆく。

1983年の「探偵物語」は84.1万枚、1984年の「メイン・テーマ」は51.2万枚、「Woman “Wの悲劇” より」は37.3万枚と売上は下降するが、オリコンチャートで最高1位か2位のヒットを連発。楽曲の完成度も高く、曲に魅了されてレコードを買ったリスナーも多かったと思う。

私もその1人だ。なかでも「メイン・テーマ」は、部活と受験勉強に打ち込んでいた(…と思われる)私の心を直撃した。そして、レコードからカセット、MD、iPodと媒体が変わってもプレイリストに残り、繰り返し聴いた。

ある時、作曲した南佳孝も「スタンダード・ナンバー」というタイトルでこの曲を歌っていたことを知った。聴いてみて、なぜ私がこの曲を聴きたくなるかわかった気がした。それは、編曲だったのだ。

作曲者の南佳孝が歌った「スタンダード・ナンバー」


南佳孝の「スタンダード・ナンバー」は、薬師丸ひろ子よりも1ヶ月早い4月21日に発売された。「メイン・テーマ」と比べて歌詞の一部が変わっているので、「セーラー服と機関銃」と来生たかおの「夢の途中」の関係に似ている。しかし聴き比べると、男女のひとつの恋愛シーンが、それぞれの立場で書かれていることに気づく。

むろん、薬師丸ひろ子が女性側、南佳孝が男性側だ。曲調も、「メイン・テーマ」はメリハリが効いたセンチメンタルなバラード。一方の「スタンダード・ナンバー」は、シティポップ路線の南佳孝だけあって都会っぽく洗練されたポップス。メロディーは同じだが、薬師丸ひろ子の歌からは、少し背伸びする20歳の女性の不安な心が、南佳孝の歌からは、クールで冷めた大人感が伝わってくる。私は聴き比べて、曲の印象が編曲で一変することに驚いた。

両曲とも編曲は大村雅朗。リマインダーのカタリベであり音楽評論家のスージー鈴木氏は著書『1984年の歌謡曲』(イースト新書)の中で、

『探偵物語』と『Woman』の狭間で光る、大村雅朗の超ド級アレンジ

…と「メイン・テーマ」の編曲を絶賛しているが、その理由を、

『不思議に隙間が多いけれど、密度が高い音』という、謎の日本語でしか説明できない

…とだけ評している。残念ながら私も評価の言葉が浮かばないが、この曲の魅力が編曲であることには同意する。

ひろ子主演映画の原作は片岡義男、監督は森田芳光


一方、「メイン・テーマ」は薬師丸ひろ子の主演映画の主題歌である。映画の設定は、20歳を迎える等身大のひろ子をどう見せるか。まさにこれが “メイン・テーマ” だった。

原作者の片岡義男は、1983年の夏に角川春樹氏と軽井沢で会った時、「1984年の夏に森田芳光監督、薬師丸ひろ子主演の映画を公開したいので、その原作をカドカワノベルズで書いてほしい」と依頼されたそうだ(『メイン・テーマ1(角川文庫)』あとがきより)。これに基づき、片岡義男は20歳を迎える薬師丸ひろ子に見立てた主人公の役(女子短大を出て幼稚園に就職したばかりの保母さん)を考え、原作を書いた。

これを読んで森田芳光監督は映画の脚本を書き、原作とかけ離れたストーリーと映像が印象的な作品を作った。そして音楽の制作には、1981年に上映された片岡義男原作の映画『スローなブギにしてくれ』の主題歌を作った南佳孝と松本隆が選ばれた。

「スローなブギにしてくれ(I want you)」は、出だしが印象的な都会のハードボイルドな曲。その南佳孝が20歳の薬師丸ひろ子を思い描いて曲を作り、松本隆が詞を乗せ、大村雅朗が編曲したのが「メイン・テーマ」なのだ。

20歳の女性の揺れ動く心、寄せては返す波音のようなメロディー


「♪ とーきはしのびあーしでー」の特徴あるメロディーから始まり、似たメロディーが変奏曲のように続く構成は、寄せては返す波音のよう。20歳の女性の揺れ動く心が伝わり、聴いていて心地よい。不安そうに始まり大波が寄せるように盛り上がるイントロも素晴らしい。

この編曲に、大人の男性との恋の駆け引きを描いた歌詞が乗る。原作や映画にも登場する海辺に停めた車を舞台に、「蝶のように跳ねる波」、「息を殺しながら」、「愛ってよくわからない」といった印象的なフレーズが歌われた後「20年も生きてきたのにね」という締めの一節で、20歳という年齢がリスナーの心に刻まれる。ひろ子の歌声も過去2曲と比べて心がこもり、大人の女性を感じる。

私は、この「メイン・テーマ」を聴くたびに、人生のメイン・テーマをぼんやり考えていた20歳の頃の自分を思い出す。そして、今のメイン・テーマは何だろう… と、つい考えてしまうのだ。

映画のラストシーンとB面の「スロー・バラード」にも注目!


ちなみに大人の女性といえば、 映画「メイン・テーマ」で恋愛が不器用な垢抜けない女性を演じていた薬師丸ひろ子が、ラストシーンでは赤いドレスを身にまとった淑女に変わる。相手役の野村宏伸と腕を組みホテルの一室に入るまでのひろ子の表情は見どころだ。BGMには「メイン・テーマ」が流れ、まるで豪華なMVを観ている錯覚を覚える。

また、同じ制作陣が作ったB面の「スロー・バラード」も、映画の挿入歌に使われている。薬師丸ひろ子が演じる主人公が男性に会いに沖縄を訪れるシーンで流れるが、沖縄の風景とノスタルジックな音楽が妙にマッチして、バブル直前で元気だった昭和の日本を想起させる。こちらも薬師丸ひろ子のハイトーンボイスが切なさを醸し出す名曲なので、ぜひ味わってみてほしい。



2020.12.23
14
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くまっしー
まさに、アレンジで曲が変わる好例ですね。
クリス松村さんも、ドキュメント番組「風の譜~福岡が生んだ伝説の編曲家 大村雅朗~」の中で「メイン・テーマ」「スタンダード・ナンバー」の編曲の違いについて取り上げていました。
2020/12/23 23:54
0
返信
カタリベ
1966年生まれ
松林建
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