渡辺美里の生き様を感じさせられる一言とは?
2011年にリリースしたアルバム『Serendipity』のインタビューのときのこと――。
「もっともっと歌がうまくなりたい」と語ってくれたときの渡辺美里の瞳が今でも忘れられずにいる。これほど圧倒的な歌唱力を持つ渡辺美里の言葉に思わず背筋が伸びた。これほど素晴らしい歌声を持ち、キャリアを積んできた人が、けっして現状に満足することなく、いまなお自分と向き合っている。
これは、きっとどんな道でも同じだろう。特別なことをしていなくても、何かを極めていなくても、自分の人生においては誰もが自分という道を生きるプロのはずだ。
渡辺美里という人がどれほど歌を愛し、どれほどの情熱を音楽に注ぎ続けてきたのか… 生き様を感じさせられる一言だった。10代でデビューしたときの大きくて真っ直ぐな瞳は、今だって何も変わっていない。私がずっと渡辺美里を好きな理由は、きっとこうしたところにあるのだと確信した。
初のデュエットアルバム「Face to Face~うたの木~」
そんな渡辺美里が5月3日にニューアルバム『Face to Face〜うたの木~』をリリース。語り継ぎたい邦楽、洋楽のカバー曲を集めた「うたの木」は2002年から続くシリーズで、今回が8作目となる。毎回、テーマに沿った世界観が広がる。今回は『Face to Face〜うたの木~』というタイトルの通り、初のデュエットアルバムとなっている。
今回のテーマがデュエットと公表されると、誰とデュエットするのだろうかと期待するファンの声があちこちから聞こえてきた。
そして発表されると、「どんなアルバムになるのだろう」とさらにテンションも上がった。曲のチョイスも幅広く「東京ブギウギ」は世良公則とカッコよく、「L-O-V-E」は小堺一機と軽快に。どの名曲も華やかでキラキラと輝いている。
今回は、特に個人的に、深く心に残った曲をピックアップしたいと思う。
プラチナコンビと呼ばれる大江千里と渡辺美里
1曲目には、“スウィングしなけりゃ意味が無い!” という意味を持つ、言わずと知れたジャズの名曲「It Don't Mean A Thing」をLiLiCoとデュエット。のっけから渡辺美里の歌声に度肝を抜かれた。とにかくすごい。こういう曲を歌ってほしかった! と思うほど素晴らしい!! アレンジも歌声もとにかくすべてがクールでカッコイイ! 美里さんの歌声の鮮やかさに、思わずときめいた。
8曲目の「やさしい悪魔」は川村結花と。川村といえばシンガーソングライターであることはもちろんのこと、渡辺美里の楽曲提供では欠かせない存在だ。そして選んだ曲は吉田拓郎作曲のキャンディーズの名曲!! ハモリが多いこの曲で2人の重なる歌声の気持ちの良いこと。心地よくて息もぴったりだった!
そしてなんといっても11曲目「maybe tomorrow」。プラチナコンビと呼ばれる大江千里と渡辺美里。2人がコラボレーションしているのはいつだって胸熱じゃないですか? やっぱりファンの間でも「千里さんに参加してほしい」という声が圧倒的だった。前作『うたの木 彼のすきな歌』では大江千里の「Rain」のカバーを忠実に、かつ丁寧に歌い上げた。大江千里からも「100点をいただきました」と取材で語ってくれて、今回も大切な宝物のように歌い上げる美里の歌声が心に沁みて思わず涙が溢れた。
生きていくのはつらいけど
うまれたことを責めたりしないで
涙は悲しいからじゃない
泣くだけ泣いたら夜明けが来るから
今日が昨日より少しでもいい日に
それを思って僕らはいるんだね
という歌詞は、今だからこそチョイスされた、この時代だからこそ聴いてほしいメッセージだと思う。1994年リリースの大江千里12枚目のアルバム『Giant Steps』の最後を飾ったこの曲。前作でカバーした「Rain」といい、こんなにも素晴らしい曲を作る大江千里のすごさを今さらながらに思い知らされる。
カバーアルバムというのは、好きなアーティストが名曲たちを “たすき” のように繋いでくれて、そして私たち聴き手に「こんなに素晴らしい曲があるよ」と教えてくれる、音楽の橋渡しのようでもある。
とにかく今作の渡辺美里の歌の表現力の豊かさは圧倒的で、衝撃を受けること間違いなし。どうかぜひ、たくさんの人に聴いて、そしてまだ知らない名曲たちに触れてほしい。
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2023.05.04