1月22日

EPICソニー名曲列伝:渡辺美里「My Revolution」エピック黄金時代がやって来た!

85
3
 
 この日何の日? 
渡辺美里のシングル「My Revolution」がリリースされた日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 1986年のコラム 
シン・リジィの酔いどれ詩人「フィル・ライノット」の魂よ永遠なれ!

受験シーズンの定番ソング? とんねるず「落ちて滑って不合格」

徳永英明のレイニーブルー、今も原宿に行くと耳の奥であのイントロが…

マイ・レヴォリューション、次々と “10代初” を更新していった渡辺美里

全国ネットでローカル番組? NHK-FMリクエストアワーの珍盤コーナー

渡辺美里の「マイ・レヴォリューション」走り出した涼子の物語

もっとみる≫



photo:SonyMusic  

EPICソニー名曲列伝 vol.13
渡辺美里『My Revolution』
作詞:川村真澄
作曲:小室哲哉
編曲:大村雅朗
発売:1986年1月22日

音楽マーケットのど真ん中に駒を進めた、渡辺美里「My Revolution」


この連載「EPICソニー名曲列伝」を俯瞰するならば、第1回『EPICソニー名曲列伝:ばんばひろふみ「SACHIKO」が火をつけた大爆発への導火線』で取り上げたEPICソニー初の邦楽ヒット=ばんばひろふみ『SACHIKO』が「ホップ」、EPICソニーの方向性を決定付けた佐野元春『SOMEDAY』が「ステップ」、そしてこの曲をもって「ジャンプ」となるだろう。

つまりこの曲は「EPICソニー黄金時代」の到来を意味する。「黄金時代」とは、EPICソニーが音楽マーケットのど真ん中に駒を進めたということでもある。

その分、この曲には、佐野元春ほどのラディカリズムはない。また大沢誉志幸ほどスタイリッシュではない。でもその分、佐野元春や大沢誉志幸の作品には無い、音楽マーケットのど真ん中に分け入った楽曲だけが持ち得る、あるキラキラとした輝きのようなものがある。

ここで言う「音楽マーケットのど真ん中」を構造的に語れば、歌謡曲とニューミュージックとロックの真ん中ということになる。それぞれから等距離で、かつそれぞれの要素をうまくすくい取った音楽。

70年代までは、そんな音楽は無かった。しかし、佐野元春や大沢誉志幸、さらには大江千里やラッツ&スターなど、EPICソニーの音楽家たちによる不断のチャレンジによって、その場所に黄金郷が作り上げられた。この曲が放つキラキラとした輝きとは、つまりはその黄金郷の輝きである。

黄金郷は、EPICの黄金時代を生み出し、そして90年代になって「Jポップ」と名付けられることになるのだが。

という、重要な意味を持つ楽曲=渡辺美里『My Revolution』について。私は様々な本で語り尽くしてきた。『イントロの法則80’s~沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)では「80年代最高傑作イントロ」「大村雅朗最高傑作アレンジ」と評し、『80年代音楽解体新書』(彩流社)では、コード進行の妙味に言及した。

今回は、さらに具体的な分析として、歌い出し冒頭のたった4小節を抽出して、その中に込められた、この曲の新しさを検証してみたいと思う。

まさに新感覚! 斬新で機械的な小室哲哉サウンドの萌芽


まずは歌い出しの音形である。「♪ さよなら Sweet Pain 頬づえついていた夜は 昨日で」が冒頭4小節の歌詞となるが、実にゆったりとした前の2小節と、実にせわしない後ろの2小節の対比はどうだろう(図1)。



後に述べる音使いやコード進行もさることながら、この曲を初めて聴いたときに驚いたのは、この音形だった。まさに新感覚。今までの日本の、いや世界の音楽に無かったであろう、斬新で機械的なフレーズ。

作曲は、この曲が実質的なブレイクとなる小室哲哉。90年代に栄華を極める、斬新で機械的な小室哲哉サウンドの萌芽が、すでにここで見て取れるのだ。

歌い出しの浮遊感の正体は「9th(ナインス)」


次に、細かくなるのだが、「♪ (さ)よ(なら Sweet Pain)」の「よ」の音を注意深く聴いてほしい。何だか宙に浮いたような、妙な浮遊感があることに気付かれる方もいるかと思う(図2)。



この音は、専門用語で言う「9th(ナインス)」の音なのである。この「9th」には、大沢誉志幸『そして僕は途方に暮れる』のイントロから流れ続ける「♪ レレ・レレレミ」というリフの影響がある。この「レ」の音が「9th」で、この曲も『そして僕は途方に暮れる』も、編曲は大村雅朗。

―― 小室:大沢(誉志幸)さんの「そして僕は途方に暮れる」は、大村さんの最高傑作かなと思ってるんですけど、絶妙な組み合わせだなぁと思っていて。「これぞアレンジ」というか、曲を生かすアレンジはすごいなと

―― 「そして僕は途方に暮れる」リフは小室さんの中ではadd9thですか、それともトニック+1度?
小室:add9thですね。これで何曲書けたか数えられないくらいです。実は僕はsus4でデビューできたというか、sus4でメジャーレーベルに行けたと思っているくらいなんですが、それだけじゃだめだってことで、6thや9thもメロディやリフに入れていこうっていう時にadd9thに出会って。

梶田昌史・田渕浩久『作編曲家 大村雅朗の軌跡1951 ― 1997』(DU BOOKS)にある、小室哲哉へのインタビューより。小難しい音楽理論の話はさておき、小室哲哉が、『そして僕は途方に暮れる』や大村雅朗、「9th」の音に強い影響を受けていることが、よく分かるくだりである(ちなみに「sus4」は「♪ わかり始めた. My Revolution」で転調する前に鳴り響くコード)。

小室哲哉の新しい感性 “後ろ髪コード進行”


そして最後に、この4小節のコード進行について。図3(キー)にある進行で、これは私が「後ろ髪コード進行」と名付けるものである。クセがあり、そのため普通はサビだけに用いられるコード進行を、臆面もなく、歌い出しから何度も繰り返すところに、小室哲哉の新しい感性が体現されている(キーBをCに移調)。



以上、このたった4小節、されど4小節。4小節計16拍の中に、新しい試みが、「これでもか!これでもか!」と詰め込まれている。ただ、それが積もって珍奇な響きになるのではなく、歌謡曲とニューミュージックとロックのど真ん中で、キラキラと光り輝き出すのだから面白い。

渡辺美里が、大村雅朗が、小室哲哉が、音楽シーンのど真ん中に繰り出したのは、1986年1月のこと。さぁ、EPICの黄金時代がやって来た!


※2019年9月7日、2021年1月22日に掲載された記事をアップデート


2021.07.12
85
  Songlink
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1966年生まれ
スージー鈴木
コラムリスト≫
41
1
9
8
6
マイ・レヴォリューション、次々と “10代初” を更新していった渡辺美里
カタリベ / 佐々木 美夏
52
1
9
8
6
河合その子「青いスタスィオン」後藤次利が彩ったエキゾチックなサウンド♪
カタリベ / 藤田 太郎
43
1
9
8
6
時代を超えた名曲:渡辺美里「My Revolution」80年代の革命とはいったい何だったのか?
カタリベ / 村上 あやの
42
1
9
8
1
大村雅朗と松原みきの共通点は? 洗練されたアレンジ「ニートな午後3時」
カタリベ / 彩
48
1
9
8
4
松本隆が「時間の国のアリス」で予言した “松田聖子=永遠のアイドル”
カタリベ / 濱口 英樹
60
1
9
9
5
浜田雅功と小室哲哉の強力ビンタ「WOW WAR TONIGHT」新しい年にふさわしい90年代の名曲
カタリベ / 広瀬いくと