永ちゃんや寅さんの男気に惹かれる硬派の少年がジャニーズのトップアイドルへ
まさに八面六臂の活躍ぶりだ。
この1年で演出を手がけた舞台はのべ6本。うち2本で脚本・出演も務める一方、2冊の書籍を上梓し、盟友・植草克秀とのディナーショーも開催。4月には自身初のソロアルバムをリリースした。
本日(5月22日)、58回目の誕生日を迎えたニッキこと、錦織一清のことである。
錦織が43年(!)在籍したジャニーズ事務所を退所したのは2020年12月末。幸運なことに筆者はその7ヶ月後、ある雑誌の企画で取材をする機会に恵まれた。私ごとで恐縮だが、錦織と同じ昭和40年生まれの筆者は学生時代、ジャニーズ御用達の美容室でパーマをかけて、宴会芸で「仮面舞踏会」や「君だけに」を歌い踊っていたほどの少年隊ファン。特に “ニッキ推し” だったので、そのときの興奮たるや! ロングインタビューは夢のようなひとときだった。
そしてその夢は嬉しいことに一度で終わらなかった。
「実は私、ラジオもやっているのですが……」。マネージャーさんにそう伝えたところ、2021年10月に筆者が担当している番組へのゲスト出演が実現。2023年2月にはWEB媒体の取材で3度目の対面が叶う。立て続けにオファーをしたのはファンということもあるが、話がめっぽう面白いから。少年時代に接した音楽、漫画、テレビ番組、映画から、近年のエンターテイメント、ゲーム、スポーツ、歴史まで、とにかく幅が広いのだ。しかもそれぞれに造詣が深い。
それは東京の下町育ちで、永ちゃんや寅さんの男気に惹かれる硬派の少年がジャニーズでトップアイドルとなり、その一方でつかこうへいの薫陶を受けて演劇の分野でも活躍するというキャリアによって育まれた部分もあるかもしれない。もともと好奇心旺盛なのだろうが、演じ手・作り手として古今東西のエンターテイメントや文化に触れることで、ジャンルを超えて物事の魅力を見極める目利きとなったように思えるのだ。
ディナーショーで「あずさ2号」をデュエット! ニッキの歌謡曲に対する愛やこだわり
そんな印象を3度のインタビューを通じて深めた筆者だが、ニッキが歌謡曲に対しても愛やこだわりを持っているとは知らなかった。
―― というのも、取材中に登場した音楽に関する話題は『ソウル・トレイン』(日本でも放送されていた米国の音楽番組)、ディスコミュージック、ミュージカル、矢沢永吉、スペクトラム、ブロウ・モンキーズ、スタイル・カウンシルなど。そこから「洋楽やロックが本丸で、歌謡曲には興味がないのだろう」と思い込んでしまったのだ。歌謡曲愛好家を自任する身として、きちんと確認しなかった不明を恥じるばかりである。
それゆえ昨年末、カッちゃんとのディナーショーで「あずさ2号」をデュエットし、「来春、この曲を含む歌謡曲のカバーアルバムを出します」と発表したときは仰天した。が、その驚きはすぐ喜びに変わる。筆者が大好きな歌謡曲を同期の星・ニッキの歌声で聴ける。「俺得の企画じゃん!」と思ったからだ。
「一体どんな曲を選ぶんだろう」
「どういうアレンジで歌うんだろう」
ワクワクしながら待つ筆者のもとに届いたのが、4月26日にリリースされた『歌謡 Style Collection』である。
ドラマティックな名曲の数々、ニッキが歌う歌謡曲の王道
収録曲は以下の通り。
曲名 / オリジナル歌手 / オリジナル発売年 / 作詞 / 作曲 / オリコン最高位
M1. For Your Love / 柳ジョージ(1986年 / トシ・スミカワ / 鈴木キサブロー)80位
M2. 五月のバラ / 津川晃(1970年 / なかにし礼 / 川口真)100位圏外
M3. 池上線 / 西島三重子(1975年 / 佐藤順英 / 西島三重子)100位圏外
M4. めぐり逢い紡いで / 大塚博堂(1978年 / るい / 大塚博堂)100位圏外
M5. あずさ2号 / 狩人(1977年 / 竜真知子 / 都倉俊一)4位
M6. 東京HOLD ME TIGHT / 桂銀淑(1991年 / 大津あきら / 浜圭介)78位
M7. ラヴ・イズ・オーヴァー / 欧陽菲菲(1979年 / 伊藤薫 / 伊藤薫)1位
M8. さよならをもう一度 / 尾崎紀世彦(1971年 / 阿久悠 / 川口真)2位
M9. 忘れていいの-愛の幕切れ- / 小川知子・谷村新司(1984年 / 谷村新司 / 谷村新司)21位
M10. ブルースカイ ブルー / 西城秀樹(1978年 / 阿久悠 / 馬飼野康二)3位

リリースの1ヶ月前、3月にこのラインナップが発表されたときは「やるな、ニッキ!」と上から目線で歓喜してしまった。いずれも情景描写に心理描写が重なり合ったストーリー性のある歌ばかり。人生や恋愛の機微をドラマティックに描いている点は歌謡曲の王道と言っていい。
さらに唸らされたのは誰もが知るヒット曲の寄せ集めではなかったこと。オリジナルがトップ10入りしているのは4曲のみ。おそらくよほどの好事家でない限り、全曲口ずさめる人はそういないはずだ。
“再会” や “発見”、カバーアルバムの醍醐味とは?
――「カバーアルバムの醍醐味は知る人ぞ知る名曲を発掘すること。そうでないと単なるカラオケ大会みたいに薄っぺらい内容になってしまう」。
筆者が尊敬する音楽プロデューサーの言葉である。もちろん有名曲を否定しているのではない。「あのヒット曲をこの人が歌ったら、どんな感じになるんだろう」と興味を持たせるフックは必要だが、それだけでは面白くないということだ。
「あ~、あったよなぁ、この曲」
「そうそう、それほどヒットはしなかったけれど、名曲なんだよ、これ」
「え~、全く知らなかったけど、いい歌だなぁ。オリジナルも聴いてみよう」
そんな “再会” や “発見” があれば、2倍も3倍もアルバムを楽しめる。選曲に対する歌い手の姿勢や、オリジナル曲との関係性にも思いを馳せることができるからだ。
「いつ、どういうシチュエーションでこの曲の存在を知ったのか」
「この曲のどこに惹かれたのか」
「あえてこの曲を選んだ理由は何なのか」
大ヒット曲のオンパレードだったら、そういう疑問は浮かばない。本人によると、今回のアルバムはカラオケボックスが普及する前、カラオケパブやラウンジなどでよく歌っていた曲が中心とのこと。それを知って同じ時代、六本木のABCやローリング20(テーブルごとにマイクが回るカラオケパブ)などで遊んでいた筆者は当時、カラオケ上級者に好まれた鈴木聖美の「TAXI」や桑名正博の「月のあかり」などが浮かんだのだが、他にはどんな曲が候補だったのか。
―― もしまた取材をする機会に恵まれたときはニッキに直接確認したい。そう思わせるネタの宝庫が『歌謡 Style Collection』なのだ。
原曲に忠実な構成と歌唱。オリジナルへの愛とリスペクト
収録曲の発表だけで勝手に盛り上がった筆者だが、CDを聴いてさらにテンションが上がった。ストリングスとブラスを駆使したあの頃の歌謡曲アレンジ、「五月のバラ」のエンディングのフェイクを除いて原曲に忠実な構成と歌唱(おそらく「五月のバラ」は1977年発売の塚田三喜夫バージョンがベースだろう)、オリジナルへの愛とリスペクトが随所から伝わってきたことに加え、ニッキのボーカルが素晴らしく、その感動を誰かと分かち合いたくて、マネージャーさんにメールしたほどだ。
ドラマを感じさせる味のある声と言ったらいいだろうか。20代の頃は透明感のある伸びやかな歌声が魅力だったが、50代の今は少ししゃがれて説得力がある。酸いも甘いも嚙み分けた大人の歌は齢を重ねた現在のニッキにこそふさわしい。カッちゃんとの「あずさ2号」と井上珠美との「忘れていいの」、情感溢れるデュエットも胸熱だ。
今年の夏はパパイヤ鈴木との新ユニット「Funky Diamond 18」として全国ツアーを行なうニッキ。

「ディスコ世代のふたりが贈るオトナによる、オトナの為の、ザ・オトナのエンタテインメント!! 懐かしいあの時代を歌い踊る!!」
との触れ込みだが、もしかするとそのステージで本作の収録曲をいくつか披露してくれるかもしれない。
独立から2年半。お楽しみはこれからだ!
▶ 少年隊のコラム一覧はこちら!
2023.05.22