1980年の芸能界の台風の目、もんた&ブラザーズ
小さい頃から音楽は好きだったが、一番ではなかった。釣りや漫画やサッカーや野球の方が好きだった。でも、ある曲を聴いたことがきっかけで音楽が一番になり、それは今でも変わらない。
1980年、僕は小学5年生だった。同級生の女の子たちが好きな芸能人の写真を学校に持ってくるようになり、クラスの話題の中心が、それまでの漫画やアニメから歌番組やドラマやバラエティ番組へと変わっていった頃だ。
その曲は何の前触れもなく僕の中に飛び込んできた。少ししゃくれ顔の小柄な男が、しゃがれた声で叫ぶように歌っていた。テレビの司会者が「今年の芸能界の台風の目です」と紹介していたのを覚えている。
もんた&ブラザーズ「ダンシング・オールナイト」。この曲が僕に与えたものは、それまでに経験したことのない震えるような感動だった。僕はあっという間にもんた&ブラザーズのファンになると、音楽の話ばかりをするようになった。誰かのファンになったのはこれが初めてだった。
もんた&ブラザーズが教えてくれたリズム&ブルースという音楽
友人達がもんたが載った雑誌の切り抜きをたくさんくれるので、僕はそれをせっせとノートに貼付けていった。すると、すぐに1冊のスクラップブックができあがった。それを見た友人達も、同じように自分が好きな芸能人のスクラップブックを作りはじめた。学校でそれらを見せ合うのが楽しかった。
もんた&ブラザーズをきっかけにして、僕はたくさんのことを知った。しゃがれ声を英語ではハスキーということ。もんたがリズム&ブルースを歌いたくて、わざと大声を出して喉をつぶしたという記事を読んで、リズム&ブルースという音楽に興味を持った。
もんたが学生時代に修学旅行のバスの中でパット・ブーンの「砂に書いたラブレター(Love Letters In The Sand)」を歌ったと知り、その曲を聴いてみたくなった。また、バンドのドラマーが黒人だったことも、僕が洋楽を聴き始める下地になったように思う。他にもいろいろ。例を挙げ出したら切りがない。
200万枚超の売上、80年代でもっとも売れた「ダンシング・オールナイト」
「ダンシング・オールナイト」は、その年最大のヒットというだけでなく、80年代の10年間でもっとも売れた曲となった。売上枚数は200万枚を超える。妖し気なギターのイントロ、マイナー調のメロディー、エイトビート、もんたのしゃがれ声、小さな体を目一杯使ってのステージアクション。すべてが時代の空気にぴったりとはまったのだろう。
ちなみに、僕が初めて自分の小遣いで買ったレコードは、もんた&ブラザーズの2枚目のシングル「赤いアンブレラ」だった。「ダンシング・オールナイト」は、テレビやラジオをつければいつでも聴けたから、買う必要がなかったのだ。
ほどなくしてビートルズを知り、僕の歌謡曲に対する興味は急速に色褪せていくことになるのだが、その一歩手前にもんた&ブラザーズがいたことは、存外悪くなかったように思う。たくさんのことを教えてもらった恩義もあってか、その後もサードアルバムまではカセットを購入している。
今でももんたの名前を聞くと、つい反応してしまう。あれから大分たつのに、まだ体が覚えているのだろう。幼い頃に夢中になった記憶というのは、得てしてそんなものなのかもしれない。
※2018年1月20日に掲載された記事のタイトルと見出しを変更
2021.01.08