金子正次。
『竜二』で知られる脚本家、さらには主演まで務める夭逝の作家は、病院のベッドで『ちょうちん』という遺作を書き上げる。
『竜二』『チ・ン・ピ・ラ』『ちょうちん』を以って金子3部作と呼ばれているが、ジム・ジャームッシュやレオス・カラックス3部作と比べても全く引けをとらない仕上がりとなっていて、日本が世界に誇る事が出来る作品だ。
その大トリを飾る『ちょうちん』。僕はこの映画が一番好きだ。前二作も必見の作品である事に間違いはないが『ちょうちん』は幻の作品となっている事が神秘性を高めている。版権の関係なのか、近年その映像にお目にかかったことがない。主演は陣内孝則と石田えり。
石田えりのキャスティングに違和感はなかったが、ロッカーズのヴォ―カリストだった陣内に果たして主役の演技が出来るのか未知数であった。倉本聰脚本の『ライスカレー』というテレビドラマに抜擢され、しばらくしてこの映画の主役を張った。
このときの陣内の格好良さときたら30年経った今でも脳裏に焼き付いて離れない。夜でもレイバンのウェイファーラーをかけてリーゼントパーマ。
イタリア製、ジャンマルコベントゥーリの白いトレンチコートを羽織り、スーツは太縞模様の白✕グレーのストライプ。
派手な出で立ち。いくらバブル時代とはいえ、目立たないはずがない。キメ台詞はカタルシス満載。
「親や世間に逆らって、重ねた悪事もこれまでか。一に窃盗、二に詐欺で、三度の喧嘩にパクられて、検事判事のいる前で、一度は強情張ったけど、所詮叶わぬ現行犯。昼は厳しい監視の目、夜は冷たい鉄格子。瞼閉じればありありとエプロン姿のかわいい娘 」
ここで鳴り響くジョン・ルーリーの実弟で元ラウンジ・リザーズ、エヴァン・ルーリー書き下ろしのイントロ。アルゼンチンタンゴの哀愁が劇場に拡がる。
「いつまでもフラフラしてらんねぇだろう、ちょうちんみたいによぉ」
陣内演じる村田千秋という主人公自体が《ちょうちん》だったのだ。これに憧れない男がいるのだろうか? ここではない何処か。自分ではない誰かを模索する当時の自分の姿そのものではないか…
次の日、レイバンのウェイファーラーを買った。
追記、『ちょうちん』DVD化、切望します。
2017.09.05
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