梅雨の季節だったから “かたつむり” だったのだろうか。それにしてもなぜ “サンバ” になったのだろう。
30年前の1987年に解散したおニャン子クラブはこの年3枚のシングルをリリースしているが、それまでの6枚のシングルが3枚めの「じゃあね」以外全てコミカルだったのに対し、この年の3枚のシングルは全てシリアスに転じている。その2枚めが5月にリリースされた「かたつむりサンバ」である。
メインヴォーカルは、富川春美(会員番号14番)、工藤静香(同38番)、吉見美津子(同49番)、杉浦美雪(同50番)の4名。
ホイッスルとパーカッションと歓声と打ち込みのドラムの4小節でけたたましくイントロが始まる。そしてエレキギターのリフが入りイントロが本格始動、リフは3小節続き1小節休止。ここでおニャン子たちの「パパパヤパーヤパパヤ」というコーラスが入るのだが印象はがらっと変わる。
手前は♭3つのハ短調だったのが、何と♭の無いイ短調へと転調するのである。2音落ちるので、元々緊迫感のあったイントロに更に翳りが加わるのだ。
作編曲は後藤次利が手がけているのだが、イントロ途中の転調とは予想外で流石と言う他あるまい。ちなみに間奏とアウトロでこの転調は更に2回出て来る。
“雨上がり 晴れた空に 七色の虹の万華鏡
小さな水たまりは 誰かが忘れた水の帽子”
杉浦美雪がソロで歌うAメロでは秋元康の歌詞はロマンチックながらもゆっくりと立ち上がる印象。A’メロも同様。未だ序章なのだ。
しかし工藤静香がおニャン子クラブのシングルで初めてソロを取るBメロで曲は大きく表情を変える。
“ねェ あなた どこに どこにいるの? 私は一人 淋しくて 殻から出れないの”
思いっきり最後が “ら抜き言葉” で時代を先取りしている(笑)が、工藤の伸びやかな歌声と共にぐっと緊張感が増してくる。
Bメロが実にBメロらしい役割を果たしている。そしてメンバー全員の “さあ!” が5回繰り返され、いよいよサビを迎えるのだ。
“TSUNO出せサンバ YARI出せサンバ
恋はいつでも かたつむりね
ゆっくりでいい ゆっくりでいい
私の心を迎えに来て欲しい”
“かたつむり” がなかなか恋心を伝えられない男の子と女の子を表したものであることが、メンバー全員の合唱するサビで一気に明らかになる。
サンバはその気持ちを後押しするリズムなのだろう。緊張感のあるBメロからのサビでの開放感は見事という他無い。
“ねェ いつか ここに ここに来てよ!
あなたのそばにいたいから 待ってる私なの”
“TSUNO出せサンバ YARI出せサンバ
そうよわたしは情熱むし
あきらめないで あきらめないで
自分のペースで迎えに来て欲しい”
2番では吉見の歌うBメロもサビもいずれの歌詞も更に熱を帯びてくる。それにしても、かたつむりとサンバを組み合わせて梅雨の季節に “スローラブ” をテーマにした歌詞を作ってしまう秋元康は、やはり決して只者などではない。
サンバと名の付く歌謡曲としては、郷ひろみの「お嫁サンバ」(1981年)と肩を並べると言っても過言ではないと僕は思うのだがいかがだろう。
この曲はおニャン子クラブ最後のNo.1ソングとなったが、オリコンでのセールスは7万強に留まった。
2017.06.28
YouTube / TMW 1228
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