7月1日

BO GUMBOS「魚ごっこ」強くて太いKYONのピアノとどんとのデリケートな狂気

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photo:SonyMusic  

EPICソニー名曲列伝 vol.24
BO GUMBOS『魚ごっこ』
作詞:BO GUMBOS
作曲:BO GUMBOS
発売:1989年7月1日(アルバム『BO & GUMBO』に収録)

武骨ロック市場への進出? 拡大志向のEPICソニー


ボ・ガンボスのデビューを楽しみにしていた。

前回のコラム『EPICソニー名曲列伝:遊佐未森「地図をください」エピックらしさとのやわらかな訣別』で取り上げた遊佐未森などのデビューによって、EPICソニーのロック的なイメージが少しばかり狂い始めたところだったので、それを取り戻す存在としてのボ・ガンボスに注目したのだ。「あの伝説的バンド=ローザ・ルクセンブルグのどんとの新バンド」という触れ込みにも、期待が高まった。

アルバム『BO & GUMBO』の発売は89年の7月1日。その前年の3月に EPICソニーからデビューしたのが、当時『ROCKIN'ON JAPAN』誌が猛烈にプッシュしていたエレファントカシマシ。

「EPICソニーのロック的なイメージを取り戻す」と書いたが、よく考えれば、ボ・ガンボスとエレファントカシマシは、私が「80年代EPICソニーの背骨」とする「佐野元春=大沢誉志幸=岡村靖幸」というラインからは、ちょっとずれている。

都会的でグルーヴィな「80年代EPICソニーの背骨」からの拡大路線。前回の遊佐未森、鈴木祥子が「文科系女子」市場への進出ならば、ボ・ガンボスとエレファントカシマシは「武骨ロック市場」への進出とでも言うべきか。いずれにしろ、当時のEPICソニーは拡大志向だった。

ボ・ガンボス代表曲「魚ごっこ」強くて太いニューオリンズ・ピアノ


そのアルバム『BO & GUMBO』。期待に応える気合が詰まっている。何といってもニューオリンズ録音、ボ・ディドリー参加である。

アルバムの代表曲が、この『魚ごっこ』。その意味不明なタイトル、ナンセンスな歌詞(一説には、警察官に職務質問されたときのことを歌っているという)もさることながら、この曲を際立たせているのは、何といっても KYON(川上恭生)のアコースティックピアノだ。

ニューオリンズ風の演奏法。右手は、基本コードを弾きながら、上から素早く下降するアルペジオを全小節に入れ、かつブルーノートを多用して派手派手しく動かし、逆に左手は抑制的にベースラインを奏で続ける―― と、文字で書いても全く伝わらないか。

加えて、曲の合間に繰り返されるのが、グリッサンドという奏法。ピアノの鍵盤を、上から下までギューンと一気に弾き降ろすあれだ(開始早々4小節目にいきなり出てくる)。とにかくそんな、KYON の派手派手しいピアノプレイが、私の音楽魂を射止めたのだ。

派手派手しいピアノ、言い換えると、強くて太いピアノ。妙な表現だが、本当にそう感じるのだから仕方が無い。勢い余って、楽譜を買って、自分でもチャレンジしてみた。が―― 弾けなかった。未だに弾けない。がっしりと強くて、どっしりと太い KYON のピアノ。私の永遠の憧れ。

バンドブーム、渋谷系ムーブメントのなかで…


さて。ボ・ガンボスがデビューした89年には、もう1つ重要なムーブメントが始まっている。TBS『三宅裕司のいかすバンド天国』、通称「イカ天」である。89年の2月スタート。

イカ天も大きなキッカケとしながら、空前の「バンドブーム」が起きる。当時を知らない方には、このバンドブーム、ボ・ガンボスにとって追い風のように見えるかもしれないが、実際はそうでは無かったと思う。

悪貨が良貨を駆逐していき、見どころの無いバンドばかりが世にはばかる環境は、ニューオリンズに目を向ける音楽主義的志向を持つボ・ガンボスにとって、さぞかし居心地が悪かったことだろう。

私が思うのは、デビューがもう少し遅かったなら、ということだ。90年代中盤、「渋谷系」というムーブメントが発生、「音楽主義」が商売になる時代が到来する。あの中でデビューしていたら、ボ・ガンボスの音楽は、もっと広がったのではないかと思うのだ。

と思いながら、渋谷系という、バンドブームとは違う意味のうさんくささを伴ったムーブメントの中でチヤホヤされることも、いさぎよしとしなかっただろう、どんとという人は、とも思う。

デリケートな狂気が立ち込めるボーカリスト どんと


最後に、ボ・ガンボスのボーカリスト=どんとについて書いておく。

私は当時、どんとという人を、ある緊張感を持って眺めていた。きらびやかな衣装でシャウトしている姿に、どんとの内面から発せられている、デリケートな狂気のようなものが立ち込めていたからだ。

きらびやかな姿から立ち込める狂気―― RCサクセション時代の忌野清志郎からも、同じような感覚を得たのだが、どんとの場合は、狂気の度合いがさらに強いというか。

89年5月発売『ROCKIN'ON JAPAN FILE vol.2』でどんとはこう語っている――「ほんとは、自分のしたいことっていうのは、何て言うか、例えば新興宗教のとかの感じが匂うもんとかさ、裏学生運動みたいなのとかさ(後略)」。

元々がラディカルな精神性の人だったのだろう。そもそも、ボ・ガンボスの前にどんとが組んでいたバンドの名前=「ローザ・ルクセンブルグ」とは、ポーランドに生まれドイツで活動して虐殺された女性マルクス主義者の名前だ(一般にはローザ・ルクセンブル「ク」)。

アルバム『BO & GUMBO』収録『ダイナマイトに火をつけろ』で、「♪ こんな社会につばをはき」とシャウトしたどんとにとって、バンドブームや渋谷系に消費されなかったことは本望だったのではないか。

しかし、2000年1月28日、ハワイ島ヒロ市内にて脳内出血のため、どんと永眠。享年37。その若すぎる死を知ったとき、私の心に流れてきたのは『魚ごっこ』の替え歌だ―― 「♪ 90年代、CDバブルに浮かれる音楽業界から、自由にすいすい泳ぐ魚じゃないとやってられないよ!」


※ スージー鈴木の連載「EPICソニー名曲列伝」
80年代の音楽シーンを席巻した EPICソニー。個性が見えにくい日本のレコード業界の中で、なぜ EPICソニーが個性的なレーベルとして君臨できたのか。その向こう側に見えるエピックの特異性を描く大好評連載シリーズ。

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2020.03.19
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