夏うたを2026年の視点で再編集 vol.5
RIVER’S ISLAND / 杉山清貴&オメガトライブ
夏うたの名手、杉山清貴&オメガトライブ いわゆる “夏うたの名手” を挙げるとキリがないが、ランキングでも取れば杉山清貴&オメガトライブの名前はかなり上位に位置するだろう。「SUMMER SUSPICION」に始まり「君のハートはマリンブルー」や「ふたりの夏物語 NEVER ENDING SUMMER」といったヒット曲はもちろん、アルバム収録曲の中にも、彼らのレパートリーには夏を想起させる知られざる名曲は山ほどある。誰もが彼らを、夏のイメージと共に語るはずだ。
1983年に「SUMMER SUSPICION」でデビューした杉山清貴&オメガトライブは、そのヒットによってお茶の間に大きな存在感を示すことになった。1983年にリリースされたファーストアルバム『AQUA CITY』はハワイの夜景写真を使用したアートワークのイメージ通り、リゾート感覚に満ちたスタイリッシュなポップスアルバムであり、翌年のシングル「君のハートはマリンブルー」のヒットもあって、すっかりリゾートポップスのイメージ戦略に成功するのである。
同時に、彼らの音楽には非常にコンテンポラリーな世界観があり、都会的なイメージも持ち合わせていた。おそらくそういったことも加味して、セカンドアルバム『RIVER’S ISLAND』(1984年)は制作されたのだろう。ジャケット写真は茜色に染まる摩天楼が起用され、収録曲もあからさまに夏やリゾートを打ち出したものは少ない。そんな都会的なアルバムの冒頭に置かれているのが、タイトル曲でもある「RIVER’S ISLAND」である。
清涼感を味わえるスタイリッシュに組み立てられたサウンド シュワーッ!という効果音の後、ドラムスのフィルが入り、スラップベースとカッティングギターがグルーヴするリズムセクションを土台に、きらびやかなホーンセクションが響くイントロ、そして遠くから聞こえてくるフリューゲルホーンがほのかに哀愁を醸し出していく。
歌の主人公は、女性と共に新天地を求めて “リバーズ・アイランド” に車を走らせている。橋を渡ると雨が降りだし、彼女は溜息をつくというくらいだから、希望に満ちているというよりも「♪戻れやしない」という意識の方が強いのかもしれない。それでも新たな旅立ちであり、「♪僕たちが手に入れた夢」と言い切るのである。この二人がその後どうなるのかは分からないが、前途多難ではないかと想像してしまう。
そしてよくよく聴いてみるとこの曲、まったく夏について歌っていないことに今さらながら気付いてしまった。クールなサウンドなので、てっきり “夏うたシティポップ” だと思い込んでいたようだ。それでも陰影がありながらも非常に清涼感を味わえるのは、スタイリッシュに組み立てられたサウンドがあるからこそ。作曲と編曲はご存じの林哲司。少し翳りのあるメロディを湿度低めで爽快に聴かせる技は、彼の右に出る者はいないだろう。この絶妙なバランス感は代表作である松原みき「真夜中のドア〜stay with me」で証明済みだ。とりわけ硬質なビートの上で響くエレクトリックピアノの音色やエッジの利いたホーンセクションなどの使い方は抜群。
なお、オメガトライブのレコーディングには当時の一流ミュージシャンが多数参加していたことでも知られているが、徹底して耳に心地良いサウンドを作り上げているのがプロフェッショナルである所以。もちろん、杉山清貴のヌケの良いあの声があるからこそ成立しているのだが、シティポップはいかにサウンドが重要かということがわかる好例といっていいだろう。
VIDEO
「RIVER’S ISLAND」と「雨のウェンズデイ」の共通点 ここで気になることがひとつ。この歌の主人公は「♪ウィンカーランプ壊れた古いワーゲン」を運転している。そういえば、どこかにもポンコツのワーゲンが出てきたなと考えていたら、大滝詠一の「雨のウェンズデイ」にも「♪壊れかけたワーゲンの ボンネットに腰かけて」いるシチュエーションが出てくることに気付いた。しかも、どちらも晴天ではなく雨が降っている光景の中だ。「雨のウェンズデイ」は説明不要の名盤『A LONG VACATION』(1981年)の収録曲で、作詞はもちろん松本隆。一方の「RIVER’S ISLAND」の作詞は秋元康。もしかしたら、秋元氏は、リゾートポップスを目指したオメガトライブを手掛けるにあたり、相当 “ロンバケ” を意識していたのではないだろうか。
もちろん、この説はあくまでも筆者の憶測ではある。でも「RIVER’S ISLAND」が「雨のウェンズデイ」の後日談だと勝手に解釈してみると、また違った景色が見えてくるから面白い。雨の日に海を見に行ったどこか悲しげなカップルは、およそ3年後の同じ雨の日に新しい生活を求めてリバーズ・アイランドに向かっている。
あの頃はまだ「♪壊れかけたワーゲン」だったのが、3年の月日が経って「ウィンカーランプ壊れた古いワーゲン」になっているのは当然。そして、このポンコツのワーゲンに乗っている限り、主人公の2人には夏の幻影が見えていることだろう。そう考えると、「RIVER’S ISLAND」が “夏うた” であるというのも、まんざら間違いではないのだ。
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2026.07.19