1993年 2月3日

小泉今日子【80年代アイドルの90年代サバイバル】太陽から “しっとりキョンキョン” へ

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リレー連載【80年代アイドルの90年代サバイバル】vol.7- 小泉今日子

太陽のように明るいイメージがありながら、”さよなら”が似合う小泉今日子


私にとって小泉今日子はとても複雑な存在だ。いや、正確に言うと複雑な存在 “だった” 。眩しすぎたのだ。彼女を何かに例えるとするならば、エネルギーの塊。しかも変幻自在、スライムのように形を変える。他の人ならヤバいだろう!と笑われるようなキワドいファッションも、モードに変換してしまう。加えて自己主張する強さもある。まさにヤンチャな現代版のあんみつ姫。キョンキョンが「Are you ready?」と叫べば、時代そのものが「イェーイ!」と返事をするくらいのパワーを感じたものだ。圧倒的な陽!

けれど、本当にそうだったっけ?

1986年リリースのシングル「夜明けのMEW」「木枯らしに抱かれて」そして1987年の「Smile Again」――。曲を改めて聴いてみれば、どれだけ大勢の人に囲まれていても、誰も追いつけないところにいる孤独さが当時からあった。アイドル全盛期から、太陽のように明るいイメージがありながら、”さよなら” が似合う人だった。ピーカンの青空よりも星空を見上げることのほうが、俄然多い人だった。私がそれに気づいたのは、かなり後だ。1990年以降である。

90年代 “しっとりキョンキョン” への変貌


90年代幕開けのシングルは、バブルの余韻みたいな「見逃してくれよ!」。キョンキョンはこれをエピローグとし、“時代の代弁者” から抜けた。それ以降、私にとって彼女のイメージは、太陽から雨に変わっていくのである。

大ヒットシングル「なんてったってアイドル」のようなインパクトは減り、代わりに、小雨のように、彼女の声がぽつりぽつりと降ってくるような静かな楽曲が増えていく。決してそれは “悪天” というネガティブなイメージではなく、たとえるなら、心の大事な芽を育てる恵みの雨。80年代の彼女が、どれだけ輝くことを求められ、カラカラに乾いていたかを思い知るような、“しっとりキョンキョン” への変貌だった。「La La La…」「丘を越えて」は、サビらしいサビはなく、当時は物足りなかったけれど、今となってはチル感いっぱい、マイナスイオンいっぱい。キョンキョンの声質の甘さと癒し力がとてもわかる。

100万枚以上を売り上げる大ヒットとなった「あなたに会えてよかった」




しかしなんといっても、90年代のキョンキョンと言えばやはり「あなたに会えてよかった」だろう。作詞は彼女本人で、ドラマ『パパとなっちゃん』の主題歌にもなり、100万枚以上を売り上げる大ヒットとなった。

「あなたに会えてよかった」――。これ以上、愛情をシンプルかつ的確かつロマンチックにまとめた表現はあろうかというほどの名タイトルだ。同時に、こんなにキラキラとアイドルらしい楽曲なのに、切なく寂しい聴き心地。なぜなら、この歌は全て主人公の想い出だからである。あなたに会えてよかった、と言えたのは、そばに “あなた” がいなくなってから。

明るいメロディーなので、昔はただただ「やだマジであなたと会えてよかった私~」的な、イチャイチャ恋愛シーンを想像して聴いていたが、何度も聴くと、主人公はひとりだ。そして、“ありがとう” より “逃げてごめんね” が前に来る。このあたり、届かない謝罪というか罪悪感が描かれていて、ウッと胸を抑えたくなる。見事な感謝と後悔の二重構造、大人になればなるほど心に響く。

1991年の第33回日本レコード大賞で、KAN「愛は勝つ」やCHAGE&ASKA「SAY YES」、小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」といった強豪を抑え、最優秀作詞賞に輝いたのも納得である。

生身の小泉今日子を感じた「優しい雨」




「あなたに会えてよかった」から2年後の1993年、キョンキョンは再び大ヒットを飛ばす。ドラマ『愛するということ』(TBS系)の主題歌「優しい雨」だ。作詞は本人ではなく鈴木祥子だが、私は、どの曲よりも “小泉今日子” という漢字表記の彼女を感じ、全シングルの中で、これが一番好きである。

「あなたに会えてよかった」のような、甘酸っぱいノスタルジーを歌うキョンキョンは、そこにはいない。27歳のちょっと疲れた小泉今日子と、雨が降る風景のみ。それが美しい。80年代のクリエイターたちがこぞって作り出した、キャラクターグッズのようなキョンキョンのパーツがこの曲ですべて取り払われ、生身の体温や不安みたいなものが出てくるイメージを持った。

“出会えてよかった” の「あなたに会えてよかった」と、”出会ってしまった” という「優しい雨」。それを歌った90年代は小泉今日子の “雨期” 。とてもやさしい雨の季節だったと思う。今でも、なんだか心が乾いたなと思ったら、聴きたくなる。喜びも切なさも思い出も罪悪感も後悔も、すべて彼女の湿気を含んだ声に乗り、心にひたひたと不思議な潤いと安堵感をくれるから。

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2024.04.23
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カタリベ
1969年生まれ
田中稲
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