2012年 10月24日

小泉今日子「Koizumi Chansonnier」中年のリアルを歌った私小説アルバム

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小泉今日子と対話しているような気分になる「Koizumi Chansonnier」


40代に入ると、多くのポップスが自分ごととして聴けなくなってしまったことに気づく。しかしこのアルバムは違う。

特に落ち込んでもはしゃいでもいない、ありきたりのひとりの夜、私は『Koizumi Chansonnier』をなんとはなしに流す。

聴きながら、本でも読んだり、ネットをウロウロしたり、なにか飲み物を飲んだり、そんな端々に、彼女の歌が、言葉が、耳に通り過ぎて私の心のどこかしらを軽くなでていく。

「ああ… その感情、わかるわ」
「小泉は、そう思うんだね」
「辛いよね、悲しいよね、でも受け止めなきゃね」

そしていつの間にか、聴きながら、小泉今日子と対話しているような気分になる。

普段どおりの暮らしを続けているだけなのに、思いのままに生きてきたはずなのに、長く生きていると、いつの間にか自分という存在が重く、面倒なものなっていることに気づく。

誰にも言わない泡のような想いごとも、誰にも言えない痛みの伴う思い出話も、いつのまにやら増えていく。これが中年になることなのかとしみじみ実感する。

そんな微妙なお年頃に、このアルバムはてきめんに沁みる。

今の自分を音楽で表現した “私小説”?


2000年代に入って、数年おきに発売された小泉今日子のアルバム『厚木I.C.』『Nice Middle』『Koizumi Chansonnier』は “三部作” と言ってもいいだろう。そのどれもが中年のいまのリアルを歌った私小説アルバムだ。

キラキラなんてしてない、ただありきたりのひとりの女の小泉今日子が、そのまま今の自分を、日記を記すように音楽で表現している。

そのなかでわたしが『Koizumi Chansonnier』を一番好きなのは、表現のベクトルが、外へ、未来へ向いているからだろうか。

 あの頃はよかったなんて絶対言わない
 いつも今が一番楽しいはずよ
 (Sweet & Spicy 作詞:小泉今日子)



 50年後もキスして
 とびきりカワイイおばあちゃんに
 絶対なるから
 (100% 作詞:さかいゆう)



『Koizumi Chansonnier』は小泉今日子による新たな中年像の提示のように私には聴こえる。

小泉今日子が同世代をエンパワーメント


小泉今日子は、過去を振り返った雑誌のインタビューで突然髪型をショートにしたことについて聞かれて、このように答えていた。

「校則違反にならない髪型を流行らせることができてよかった。同世代の女の子に貢献できたと思う」

アイドルとは、大資本から大衆へのメッセンジャーである。ゆえにアイドルの髪型はただの髪型ではない。”これが今のトレンドですよ” というメッセージになってしまうのだ。それがヤンキー少女の、周囲の大人たちへの思いつきの反発であったにもかかわらず、だ。

「フツーの女の子の思いつきでも、“小泉今日子” がやったら、そこに意味が生まれるんだ」

このとき小泉今日子は、アイドルはそれ自体がメディアであり、自らの肉体をコントロールすることで、新しいなにかが生み出される可能性があることを、本能で体得したのだと思う。

以来、彼女は “小泉今日子” というメディアを利用して、同世代の女の子のロールモデルを常に提示しつづけていたように思う。

「こんなふうに生きていってもいいんじゃない?」
「こういうコトもありかもね?」

… と。

『Koizumi Chansonnier』では、

「私はカワイイおばあちゃんを目指すから、みんなも目指しちゃおうよ」

そんな風に小泉今日子が同世代をエンパワーメントしているように私には聴こえる。

小泉今日子が持ち続ける“フツーの感性”とは?




歌手・小泉今日子の傑出した部分をひとつだけあげるとするなら、それは常に “フツーの感性” を(おそらく本人の強い意思によって)持ち続けているところだと思う。

16歳でデビューして、常に芸能界の一線を走り続けて、数十年。名声も得て、フツーではない人生を歩んでいる彼女だが、アイデンティティーは “フツーの女の子” にあるのだ。

中森明菜や松田聖子が、その傑出した才能ゆえに、キャリアの成長と正比例する形で一般とはかけ離れた特異な人生を歩み、歌も、聴き手にとって身近なものとは思えない非日常の "明菜劇場" "聖子劇場" と化していくのと比較すれば、その違いは如実だろう。

その鉄の意志によって死守した “フツー” の感性ゆえに、いまだに小泉今日子の歌は、“わたしの歌” として多くの人の心に寄り添い、すんなりと浸透していき、『Koizumi Chansonnier』にあるメッセージも、実のあるものとして共振できるのだ。

今作は、自らをメディア化して偶像を主体的に演じ、演じることで大衆をエンパワーメントしてきた “フツーのコイズミ” の、40代だからこそたどり着けた境地であり、“みんなのコイズミ” の面目躍如たる傑作といえるだろう。

小泉今日子には、これからも50代、60代、70代の、現在の地点を歌という形で表現してほしい。きっとそこには彼女しか描けない絵があるはずだ。…というか、このアルバムから10数年経つんだから、そろそろどうですか? コイズミさん。


2022年3月28日に掲載された記事をアップデート  

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