松田聖子でもうひとネタ書きたいと思います。80年代・松田聖子でもっとも売れた曲=『ガラスの林檎』(83年)の変態性についてです。
一聴すると、感動的なバラードなのですが、何度も聴けば聴くほど、その変なところが際立ってきて、なんだかコミックソングのように思えてきて、笑ってしまうのです。
その「変態性」を分解してご説明します。まずは何といってもイントロでしょう。静かなピアノの中に、まるで暴走族のバイクが割り込んできたかのようなディストーション・ギター。これ、うるさすぎるでしょう?
BS12トゥエルビの『ザ・カセットテープ・ミュージック』という番組に、一緒に出演させてもらっているマキタスポーツ氏は、このギターを「ブライアン・メイのよう」と形容しました。ディストーションのかかった、けたたましいギターの音が、クイーンのブライアン・メイのように、何回も重ねられている。
普通、このイントロを受けて出てくるのは、松田聖子ではなく、フレディ・マーキュリーでしょう(笑)。と、まずは、イントロからなかなかの変態なのです。
次に歌詞ですが、これは大サビに注目です。
愛しているのよ
かすかなつぶやき
聞こえない振りしてるあなたの
指を噛んだ
噛みましたよ。噛んじゃいましたよ、指。つい3年前に、少女性・純潔性のかたまりみたいな感じでデビューした「聖子ちゃん」が、オトコの指を噛んでしまいました!
これも『ザ・カセットテープ・ミュージック』の番組の中で言ったことですが、この『ガラスの林檎』と、伊東ゆかり『小指の想い出』(67年)は、日本二大「指噛みソング」となります(加えて、77年リリースの西城秀樹『ブーメランストリート』も「指噛みソング」だという指摘を、ツイッターでいただきました。これで三大)。
ですが、『ガラスの林檎』の変態性の極みは、やはりコード進行にあります。コードのベースの音の取り方が、とても変わっているのです。作曲は細野晴臣。本人がベーシストだからか、いかにも「ベーシストがピアノで作ったような曲」に聴こえます。同じくベーシストのブライアン・ウィルソン(ザ・ビーチ・ボーイズ)が作った、傑作アルバム『ペット・サウンズ』収録曲のベースの変態性に近いものがあると思います。
「ベースの音が変わっている」というのは、すなわち「分数コード」を使っているということです。ざっくり言えば、このコードが本来取るべきベース音(=根音)とは違う音を使って、「浮遊感」のような感覚を生み出す手法です。
具体的に、私が「変だなぁ」と思いつつ、「でも美しいなぁ」とも思うのは、「♪ 眼を閉じてあなたの腕の中」のところ。
【B♭】眼を【G/B】閉じ【C】て【A/C#】あな【Dm】たの【Dm/C】腕【B♭】の中
このコード進行の中の、【G/B】【A/C#】【Dm/C】が「分数コード」。
例えば【G/B】とは、コードが【G】、だから普通は、ベースの音も「G」の音にするべきなのに、あえて「B」に変えるというもの。そこで発生する「浮遊感」を味わうコードです。
また、上のコード進行のベースの音だけをたどってみると「B♭→B→C→C#→D→C→B♭」と、半音ずつ上がって、1音ずつ下がるという、きれいな勾配を描いている。これも「変だなぁ、でもキレイだなぁ」と思わせる要因です。久しぶりに、ピアノ演奏をしてみました。下記の動画「ガラスの林檎のコード進行(1)」で、左手の動きをお確かめ下さい。
そして、一番注目したいのは、歌い出しのコードです。「♪ 蒼ざ(めた月が)」のところの【F/A】。歌い出しから分数コード、これは珍しい。
こちらもピアノ演奏をしてみました(→下記の動画「ガラスの林檎のコード進行(2)」)。最初が、「♪ 蒼ざ(めた月が)」のコード進行を、普通のコード【F】から始めたもの。2回目が、原曲通り【F/A】から始めたものです。
どうでしょう? かなり微差ではありますが、2回目の響きのほうが、浮遊感があって、細野晴臣的で、ちょっと変態的な感じがしませんか? さすがに分かりにくいかな?
結論・80年代・松田聖子のいちばん売れた曲は、いちばん変態な曲だった――
2017.12.09
YouTube / natsukashino 80s
YouTube / suzie suzuki
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