日本を代表するスーパープロデューサー小室哲哉
80年代、TM NETWORKで何台ものキーボードを自在に操り、シンセを弾きまくっていた小室哲哉。作曲はもちろん、作詞も手がけ、1994年にTMNが終了宣言した後は、プロデューサーとしての活動が本格化。空前の小室ブームが巻き起こったのは周知の事実だ。
歴代作曲家シングル総売上は、筒美京平に次いで2位
歴代編曲家シングル総売上では、1位を記録
歴代作詞家シングル総売上では、秋元康、阿久悠、松本隆に次ぐ4位
これら3部門を制覇しているのは、もちろん小室哲哉のみ。作詞、作曲、アレンジ、すべての面から考えても、とてつもない才能を持った音楽家であり、日本を代表するスーパープロデューサーだ。
小室哲哉のコード進行は “小室進行” と呼ばれ、若いアーティストたちへ脈々と流れ、私たち聴き手の心の中にも自然と刻まれている。小室哲哉の音楽は間違いなく、普遍的な音楽となって現代へと引き継がれている。
ラジオ番組で語ったプロデューサーとしての片鱗
1986年にスタートした東海ラジオの番組『SF Rock Station』の中で、いつ頃からだろうか、リリースのたびに小室が繰り返していた言葉がとても印象深く心に残っている。
「TMのCDを何枚か買って、それを手元に置くんじゃなくて、周りの人に配ってほしい」というもので、「今のままでは固定ファンだけしか聴かれず、伸びていかない。もっと広くたくさんの人に聴いてもらわないとTMに明日はない」というような内容だった。
今でこそ開封用、保存用など複数のCD購入は珍しくもないが、当時は同じCDを複数購入するなんて思いつきがほとんどなかった。しかもそれはTM NETWORKの絶頂期でもあったため、「なぜ、こんなに売れているのに…?」と幼い頃の私はとても不思議に思った。加えてアーティストがセールスについて口にすることは当時、ほとんど耳にしたことがなかったので、ラジオの前でとても驚いた。
この時、初めてミュージシャン小室哲哉が、普通のミュージシャンとは違う、これまで見たことのない特別な存在なのではないかという思いが湧いてきた。
TM NETWORK初のミリオンセラー「CAROL」
1988年にリリースされた6枚目のアルバム『CAROL ~A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991~』は、TM NETWORKとしてアルバム最高売り上げを記録。ミリオンセラーを達成した作品で、17歳の少女キャロルが盗まれた “音” を取り戻すファンタジーな物語。
このライブには小室がイギリスのロンドンに渡った時の息吹がそこかしこに散りばめられており、まだ日本ではほとんど見たことのなかった、ライブとミュージカルがミックスされたシアトリカルなステージは、あまりにも斬新で人々を驚かせた。これまでのTM NETWORKとはひと味もふた味も違うステージに戸惑うファンも多く見られた。
また、CD、コンサート、小説、アニメなどを使った仕掛けも当時は見たことのない手法であり、“メディアミックス” の道筋を作ったのも小室哲哉だといえるだろう。
こうしてTM NETWORKの小室哲哉を振り返っていくと、いつも冷静、かつ俯瞰的な視点で物事を捉え、とてつもなく広い視野で音楽を見つめている小室の姿が見えてくる。その凄みは既に80年代からあり、90年代の小室ブームで花開いたことは必然だった。
小室が見つめるものは “今” ではなく、常にもっと先の “未来” だ。そしてそのためのリサーチ力と感度の高さ、感性は唯一無二。まさに“天才プロデューサー” という言葉がぴったりだ。
引退発表からの活動再開、小室哲哉から目を離すな
2018年には突然の引退発表となったが、昨年、秋元康のリクエストに応える形で乃木坂46の配信限定シングル「Route 246」の作曲・編曲を担当するなど、少しずつ音楽家としての活動も見えてきた。
また、昨年末には、TM NETWORKのボーカル・宇都宮隆と、ギター・木根尚登によるライブにもサプライズで登場。久しぶりにステージにTM NETWORKの3人が揃い、ファンを大いに喜ばせた。その模様は、近々発売となる『tribute live SPIN OFF T-Mue-needs LIVE Blu-ray』の宇都宮隆ファンクラブ限定版の特典映像で確認することができる(すでにFC限定版は受付終了)。
現在はコロナ禍の中、疲れた人たちの心を癒やせるならとクラブハウス内でピアノ演奏を披露。時にはリクエストに応えながら、名曲たちを惜しげもなく聴かせてくれている。ピアノに向かう姿(見えないけれど)は、音楽への愛情に溢れ、温かな音色に心が浄化されていくようだ。今、彼の視線の先には一体何が映っているのだろうか…。
いつの時代にあっても、私たちは小室哲哉から目が離せない。
2021.03.16