90年代デビューアーティスト ヒット曲列伝vol.1■ KinKi Kids「硝子の少年」
作詞:松本隆
作曲:山下達郎
編曲:山下達郎
発売:1997年7月21日
売上枚数:179.2万枚
イントロマエストロの藤田太郎です。この「リマインダー」では、メインで取り上げている1978年~1991年までの14年分の、年間シングルランキングTOP100のイントロ平均秒数を調査し、その結果を紹介していく連載企画、
『イントロ秒数徹底調査』の記事を書かせていただきました。その結果がひと区切りしたということで、今回から新しい「連載」をスタートさせていただきます。題して――
『90年代デビューアーティスト ヒット曲列伝』
1990年~1999年の10年間にデビューし、ヒットを生み出したアーティストの楽曲を当時の時代背景や、ムーブメントとなった事象を深堀しながら紹介していきます。
昭和歌謡ブームに続き、平成J-POPブームはもうここまで来てる! これをブームで終わらせず、しっかり味わい尽くそう! ―― そんな気持ちでお届けできればと思っています。
KinKi Kidsデビューシングル「硝子の少年」
記念すべき1回目に取り上げるのは、KinKi Kidsのデビューシングル「硝子の少年」。
「90年代はもう、社会人になって働いていたから音楽を聴かなくなっちゃったなぁ」… と思っている私より年上の皆さん(私は1979年生まれの今年、43才)でも、作詞:松本隆、作曲・編曲:山下達郎というクレジットを観るだけで「ほほう!?」と耳を傾けてしまうことでしょう。
実際、昭和の時代に数々のヒットソングを生み出してきた2人が手掛けた「硝子の少年」ですが、ジャニーズ事務所からのオーダーは、“初登場1位は当然。ミリオンヒットもマスト” という、非常にハードルが高い要求だったそうです。
デビュー前からブレイク確実!と言われていたKinKi Kids
しかしこの要求は、ジャニーズサイドから観ると決して無理な話ではなかったのです。
堂本剛は、1995年にドラマ『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)で主演の金田一一を演じ、相方の堂本光一も、1996年放送のドラマ『銀狼怪奇ファイル〜二つの頭脳を持つ少年〜』(日本テレビ系)で主演… と、2人ともCDデビュー前から、ゴールデンタイムに放送された連続ドラマで主演を務めていました。
さらに、1996年4月放送のドラマ『若葉のころ』(TBS系)では、KinKi Kidsの2人が主役を演じ、このドラマの最終回の視聴率は21.3%を記録。
テレビスターとして、脂がのりまくった状態まで育て上げ、さらにジャニーズ事務所にとって初のデュオ、そして初の関西出身グループのデビューと、KinKi Kidsは、話題性にも事欠かないトピックスが揃いまくったタイミングでの、満を持してのCDデビューだったのです。
ポピュラーミュージックの真髄、ここにあり!
松本隆が、「若いからこそ輝く、もろさや、繊細さ」を表現する歌詞を書き、山下達郎が、「筒美京平さんだったらこの2人にどんな曲を書くだろう」という視点と、ジャニーズは伝統芸能… 初代 “ジャニーズ” から繋がっているファンを惹きつければ、当時のKinKi Kidsファンのメイン層である小・中学生と、そのお母さんも振り向いてくれるだろう―― という発想から、堂本剛、堂本光一2人の、濡れている悲しい声のトーンを活かし、マイナー調のメロディを完成させます。
しかし、評判は最悪。「暗い、踊れない」と言われ、散々だったそうですが、山下達郎はKinKi Kidsの2人に「大丈夫、君たちが一生歌える曲だから」と伝えます。結果は、発売初週で31.5万枚を売り上げ、シングルチャート初登場1位を獲得。累計売上は179万枚と、至上命令だったミリオンヒットも達成します。
ライバルたちも凄かった! 1997年のシングルチャート
「硝子の少年」が初登場1位にランクインした、1997年7月28日のオリコンシングルTOP10は――
1位:硝子の少年 / Kinki Kids
2位:ひだまりの詩 / Le Couple
3位:Calling / B'z
4位:BEAT / 河村隆一
5位:HIGH PRESSURE / T.M.Revolution
6位:LOVE IS ALL MUSIC / 華原朋美
7位:ひまわり / 長渕剛
8位:WAになっておどろう / V6
9位:V・A・C・A・T・I・O・N / 吉村由美
10位:大スキ! / 広末涼子
ビーイング系アーティストのB’zや、小室哲哉プロデュースの華原朋美、ロックバンドLUNA SEAのボーカリスト・河村隆一のソロといった、90年代に大きなムーブメントを構築した群雄割拠のメンバーが軒を連ねる中でKinki Kidsが1位獲得。
結果、大成功を収めた「硝子の少年」は、90年代に入ってからもトレンドに流されず、エンターテインメントと音楽の本質をブレずに追求し続けてきた、ジャニーズ、松本隆、山下達郎の、“ポピュラーミュージックの再定義と挑戦” という、壮大なプロジェクトだったと言えるのではないでしょうか。
松本隆と山下達郎が盛り上げる25周年のKinKi Kids
今年、2022年に25周年を迎え、40代となったKinKi Kidsの2人は、今でも「硝子の少年」を歌い続けています。そして、25周年を迎えてリリースした第1弾シングル「高純度romance」の作詞は松本隆が、第2弾シングル「Amazing Love」の作・編曲は山下達郎が担当。デビューシングルを手掛けた2人が再び、25周年のKinKi Kidsを盛り上げています。
1997年のデビュー時から今も変わらず、ガラスのような儚さを持ちながらキラキラ輝いている同世代のスーパースター、堂本光一と堂本剛を2人を観ると、「硝子の少年」のメロディとともに、僕たちの想い出が横切り、駆け抜けていきます。
山下達郎が「硝子の少年」を制作したのは40代。その想い出を大切に、次は僕たちの世代が経験したことを活かし、それぞれのポジションでできる再定義と挑戦をしていく時なのかもしれません。
連載「80年代ヒット曲 "イントロ秒数徹底調査" 198X年のシングルTOP100」
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2022.10.03