夏うたを2026年の視点で再編集 vol.9
夏休みは終わらない / おニャン子クラブ
80年代アイドルでは数少なかったB面曲、アルバム曲のヒット 音楽メディアの主流がレコードだった1980年代、シングル盤にはA面とB面があり、アイドルがテレビやラジオで宣伝するのは、ほぼA面曲に限られた。一方、アルバムはシングルとは別の商品であり、収録曲の多くは熱心なファンのみが知るものだった。そのため、アイドルのB面曲やアルバム曲が、代表曲といえるまでに育つ例は少なかった。
この点で、松田聖子は別格だ。「ガラスの林檎」のB面だった「SWEET MEMORIES」は、CMをきっかけに両A面扱いとなり、大ヒットを記録した。アルバム『SUPREME』収録の「瑠璃色の地球」も、シングル化されることもないまま長く歌い継がれている。また、斉藤由貴にも「AXIA〜かなしいことり〜」「予感」という、ファンの間で代表曲と評価されるアルバム曲がある。こうした数少ない例外のなかで、テレビを通じてB面曲やアルバム曲を継続的にプロモーションした唯一の80年代女性アイドルがいる。それが、おニャン子クラブである。
A面曲以外も歌う場となった「夕やけニャンニャン」 メンバーが流動的な多人数女性アイドルグループの源流とされるおニャン子クラブは、1985年4月に放送が始まった、平日夕方のバラエティ番組『夕やけニャンニャン』(フジテレビ系)から誕生した。メンバーはこの番組に連日出演し、MC、ゲーム、トーク、歌を通じて、視聴者に顔と名前を売っていった。当時、アイドルがテレビで歌う機会は現在より格段に多かったが、1回の出演で歌えるのは原則1曲で、選ばれるのは発売中のシングルA面だった。だが、おニャン子クラブには、自分たちが毎日出演する1時間枠の番組があった。1回の放送で2曲以上歌うこともできたため、B面曲やアルバム曲まで継続的にテレビで見せることができたのである。
デビュー曲「セーラー服を脱がさないで」のB面「早すぎる世代」、ファーストアルバム『KICK OFF』収録の「真赤な自転車」「LIKE A CHERRY BOY」、河合その子のソロデビュー曲「涙の茉莉花LOVE」のB面に収められた河合その子 with おニャン子クラブ名義の「恋のチャプターA to Z」などが、その代表例である。
視聴者は曲を聴くだけでなく、誰がフロントに立つのか、どんな振り付けで歌うのかまで映像とともに覚えた。レコードを買う前からB面曲やアルバム曲を知り、それを目当てに商品を手に取ることができた。おニャン子クラブは、サブスクでアルバム全曲を自由に聴けるようになる30年以上前に、シングルA面以外の曲まで視聴者へ届けていたのである。この記事で取り上げる「夏休みは終わらない」も、こうしてテレビで披露され、アルバム購入者以外にも知られた曲の1つである。
VIDEO
「夏休みは終わらない」が描いた夏の終わりと別れ 「夏休みは終わらない」は、1986年7月10日発売のサードアルバム『PANIC THE WORLD』に収録された。作詞は秋元康、作曲は高橋研、編曲は佐藤準だ。キラキラした夏の盛りを歌った曲ではない。一人称は、秋元康が後年、AKB48や坂道グループの楽曲でも多用する “僕” だ。また、夏の終わりに人生の節目を重ねる視点は、他の秋元作品にも通じる、彼らしい作風といえる。
歌詞には宿題のドリルが登場し、子どもの夏休みであることが示される。舞台は海の近く。夏休みの終わりが近づき、一緒に過ごした “君” が都会へ帰ろうとしている。そのとき、“僕” は相手に抱いていた特別な感情に気づく。メロディーやアレンジには、過ぎていく時間を惜しむような寂しさがある。真昼のまぶしい海というより、日が傾き、風が少し涼しくなった夏の夕方を思わせる。
このアルバム発売直後、おニャン子クラブは東西のスタジアム公演を含む夏の全国ツアーをスタートさせた。ツアーは全国の主要都市を回り、9月26日の日本武道館公演へと続いた。この夏のツアーをもって、新田恵利(会員番号4番)、名越美香(会員番号9番)、福永恵規(会員番号11番)、吉沢秋絵(会員番号25番)、山本スーザン久美子(会員番号32番)が卒業することになっていた。
夏の終わりと別れを歌った曲が、メンバーとの別れへ向かうツアーで歌われたのである。こうして「夏休みは終わらない」は、ファーストアルバム収録の「真赤な自転車」と並ぶ、おニャン子クラブのライブでの定番曲となった。どちらもテレビで披露され、ツアーで繰り返し歌われることで、シングル曲と並ぶ代表曲へと育っていった。特に「夏休みは終わらない」がもたらす寂寥感は、ライブの終盤によく似合っていた。
1987年8月31日に終わった、おニャン子クラブとの放課後 おニャン子クラブの活動期間は、現代のアイドルグループとは比べ物にならないほど短い。結成から2年2か月が過ぎた1987年6月15日、『夕やけニャンニャン』の放送内で番組が同年8月末で終了し、グループが夏の全国ツアーをもって解散することが発表された。おニャン子クラブが正式に解散したのは、同年9月20日の国立代々木競技場第一体育館公演である。
それに先立ち、『夕やけニャンニャン』は8月31日、当時の多くの小中学生や高校生にとって夏休み最後の日に幕を閉じた。テレビをつければ毎日のようにおニャン子に会えた放課後も、その日を境に終わったのである。もちろん、ファイナルコンサートでも、「夏休みは終わらない」は歌われた。この曲は、『夕やけニャンニャン』の最終回が8月31日となったことで、 “おニャン子と過ごした1987年の夏休み” と重なる曲ともなったのだ。
それから40年弱。1987年は遠い過去になった。8月末になっても厳しい暑さが続く昨今、夏の終わり独特のセンチメンタルな空気は、以前ほど味わいにくくなった。しかし、「夏休みは終わらない」を聴くと、かつて感じたあの寂しさがなんとなくよみがえる。題名とは反対に、曲の中の夏休みは終わろうとしている。夏休みはいつか終わる。だからこそ、価値があるのだろう。
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2026.07.23