7月10日

1986年の秋元康 ― 小泉今日子「夜明けのMEW」にみる ほとばしる才気

71
3
 
 この日何の日? 
小泉今日子のシングル「夜明けのMEW」がリリースされた日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 1986年のコラム 
レゲエビートにのせた夏の日の恋「MERRY X'MAS IN SUMMER」

1986年の桑田佳祐と佐野元春、30歳になった2人のロックミュージシャン

無敵のダイヤモンド・デイヴ 「ヤンキー・ローズ」一発で、僕はヤラれた

エリック・クラプトン&フレンズ、たった4人のライヴ・アット・モントルー

おニャン子クラブ「夏休みは終わらない」蘇る夏の風景と夕方5時の歌声

夜空を見上げる小泉今日子「夜明けのMEW」から溢れ出る少女感

もっとみる≫




先のコラム「秋元康の長期政権は「Aメロからサビに渡された10文字」から始まった」に続いて、80年代の作詞家・秋元康の凄みについて書きます。

その80年代の中でも、とりわけ本田美奈子『1986年のマリリン』を書いた、「1986年の秋元康」のほとばしる才気には、鬼気迫るものがありました。

そして、「1986年の秋元康」を代表する作品として、小泉今日子『夜明けのMEW』があると思います。

『夜明けのMEW』の売上枚数は15.8万枚。続くシングル『木枯しに抱かれて』が27.9万枚ですから、『MEW』と鳴く猫は、『木枯らし』に吹き飛ばされそうな、半分程度の売上にすぎないのですが、ここらあたりが釈然としない。楽曲、特に歌詞のクオリティだけで言えば、『木枯らし』は『MEW』の足元にも及ばないと思うのです。

歌い出しからして素晴らしい。1番と2番の歌い出し。


♪ パジャマ代わりに 着たシャツ
  ベッドのその上で
  君は仔猫の姿勢で
  サヨナラ 待っている

♪ シェイドを開けた分だけ
  陽射しが射すように
  君が強がり言っても
  今なら 見えるのさ


これだけで情景がびんびん伝わってくる。私がイメージする情景は、86年の初夏の深夜、杉並区方南町のワンルームマンション、「ベッド」は、黒い生地のソファーベッド、そしてベッドの横には、透明強化ガラスの黒い脚のテーブル――。

そして、その傑作性をさらに高めているのが、「同類項」の使い方です。「同類項」は、数学の授業で聴いたことがある言葉だと思います。「ab+bc=b(a+c)」みたいなやつですね。この場合「b」が同類項。「b(a+c)」は同類項をまとめたもの。

転じてここでは、歌詞の中で、ある言葉やフレーズ(=同類項)を繰り返すことを指します。図解化するとこうなります。





同類項をまとめてみました。たとえば歌い出しは「♪ 夜明けのMEW」なのに、最後では「♪ 心にMEW」となります。「MEW」が同類項。「MEW」を固定して、その前の「夜明けの」と「心に」を可変することで、イメージを広げています。

また、「♪ 終わらない(眠れない)夏」も、(杉並区方南町の)途方もなく切ない初夏の夜の情景をくっきりと表していく。

そしてそして、「同類項フレーズ」の頂点が、助詞1文字の変化で、意味を180度反転させる次のフレーズです―― 「♪ 君を(が)すべて知っていると思っていた」。

「を」では、女(=「君」)に対する男の慢心・わがまま、要するに「ツン」の世界を表し、それを「が」に替えると、意味もがらっと変わり、女に対する男の依頼心・執着、要するに「デレ」の世界になります。

「♪ 君を(が)すべて知っていると思っていた」。「を」と「が」だけで、失恋につながる男の浅はかさのすべてを言い尽くしていると思いませんか?

というわけで、「秋元康をすべて知っていると思っていた」とたかをくくらず、もう一度、「1986年の秋元康」を確かめてみれば、多くの発見があるのではないでしょうか?


※2017年6月11日に掲載された記事をアップデート

2019.07.10
71
  YouTube / 夜明けのMEW


  YouTube / 1985debut
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1966年生まれ
スージー鈴木
コラムリスト≫
39
1
9
8
1
寺尾聰「ルビーの指環」聴き手の際限なき想像に耐える松本隆の歌詞強度!
カタリベ / 郷ルネ
25
1
9
8
6
資生堂 vs カネボウ CMソング戦争 〜 アイドル路線をまっしぐら!
カタリベ / @0onos
81
1
9
8
7
バイバイおニャン子、1987年の渡辺満里奈とちょっと切ない僕の夏
カタリベ / 藤澤 一雅
50
1
9
8
4
早見優「誘惑光線・クラッ!」衝撃を受けたタイトルと歌い出し、なんだこの曲は!
カタリベ / ミヤジ サイカ
65
1
9
8
4
銀色夏生が紡ぐ言葉の魅力、孤独の意味とせつなさの理由は?
カタリベ / 村上 あやの
81
1
9
8
4
小泉今日子の「渚のはいから人魚」オリコンチャートで初の1位獲得!
カタリベ / 藤澤 一雅