7月10日

おニャン子クラブ「夏休みは終わらない」蘇る夏の風景と夕方5時の歌声

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おニャン子クラブのサードアルバム「PANIC THE WORLD」がリリースされた日(「夏休みは終わらない」収録)
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80年代に流行した曲の中で、シングルA面曲ではないのに、大きな存在感を持って後世まで支持を集める曲がある。例えば、松田聖子の「Sweet Memories」や「制服」。プリンセスプリンセスの「M」なんかもその類だろう。

今回僕が取り上げるおニャン子クラブの曲は、カップリング曲ですらなく、アルバムの中の一曲にすぎない。だけど、ファンの支持度や認知度は、シングル曲以上ではないだろうか。僕も、この季節になると必ず聴きたくなってしまう。その曲とは「夏休みは終わらない」だ。

1986年7月10日にリリースされた、アルバム『PANIC THE WORLD』に収録されたこの曲であるが、高い認知度を博しているのは、楽曲の魅力もさることながら、『夕やけニャンニャン』での露出の多さが大いに関係している。この夏、『夕ニャン』で「夏休みは終わらない」が盛んにオンエアされていたのだ。現代で言う FM ラジオのヘビーローテーション曲みたいなもので、夏休みで夕方の在宅率が高かったこともあり、僕も毎日の様にこの曲を耳にすることとなった。


「君の麦わらぼうし」
「海を抱きしめた西向きの部屋」
「少しこわれかけていた扇風機」
「赤いウォーターメロン」
「遠い蝉の鳴き声」
「入江の近くの秘密の場所」
「忘れられたパラソル」


とにかくまあ、夏のワードが多く出てくる歌詞である。オンパレードと言っても過言ではない。インスタグラムが無い1986年という時代に、夏の風景がこれでもかという程に散りばめられた歌詞。この一見詰め込み過ぎにも見える歌詞構成は、逆に10代特有の刹那的な心模様を映し出しているように僕は感じる。

刹那の意味とは、もしかしたら、思春期の少年少女が一瞬で過ぎ去ってゆく今を脳裏に焼き付けようと、本能的に押される心のシャッタースピードの単位のことをいうのかもしれない。

辞書で刹那を引いたら「仏教で時間の最小単位の意味があり1刹那は75分の1秒とも言う説もある」と書いてあるので、あながち間違った推察ではないだろう。この曲の歌詞に散りばめられためくるめく夏の情景は、そんな「刹那の欠片」を集積したポエムのようでもある。


 古いラジオでは 次の台風
 北上すると 伝えてた


曲の後半、間奏を挟んだ後のこの一節は特に印象的だ。「台風」というキーワードを通して、思春期の夏休み特有の、危うさ、妖しさ、不安定さが伝わってくる。このわずか一行の歌詞から、相米慎二監督の名作映画『台風クラブ』の世界観が想起されると言ったらちょっと言い過ぎだろうか。

さて、この「夏休みは終わらない」は、リリースから1年後の1987年の夏休みにも、再び『夕ニャン』で頻繁に見ることになった。しかしその夏僕は、1年前とは違った気持ちで彼女達を見ていた。

なぜかというと、8月31日に『夕ニャン』の放送が終わることが決まっていたからだ。夕方5時にさんざん流れてきたこの曲も、もう永遠に見ることができないかもしれないと思うと、彼女達の姿を去年より集中して瞼の奥に焼き付けておかずにはいられなかった。もしかしたら、僕の方が、刹那のスピードで心のシャッターをきっていたかもしれない。ちなみに、この「夏休みは終わらない」は、最後までシングルカットはされなかったが、最終回の放送でも歌われた。

こうして今でもあの夏の風景に連れて行ってくれる「夏休みは終わらない」だが、考えてみると、写実的な歌詞が特徴の楽曲というのは、少々歌唱力が不安定でも、いやむしろ不安定な生の歌声だからこそ、胸に迫ってくる何かがあるのだと気づかされる。不安定でも空気の振動として歌声が感じられるというのは実は重要なファクターだったのではないだろうか。

あれから30年余りの時が過ぎ、アイドルの世界では、歌詞はメッセージ性のあるものや実体験に基づいたものが主流になってきたようだ。けれど、僕は思う。こうした「写実的な歌詞に生の歌声」という組合せは、ひとつのエバーグリーンな「庶民文化の芸術遺産」だったのではないだろうか。これは先細るには惜しい、次世代にも受け継いでいきたい宝物だ。

そして、心のカメラが写した世界を、歌詞で瑞々しく表現したアイドルの歌声に心を重ね夢中になった、そんな80年代に多感な思春期を過ごせたことを、僕は幸せに思う。

最後に、個人的な希望をひとつ。アラフィフを迎えたおニャン子の皆さんには体力的にきついかもしれないが、いつかまた再結成した時に、夏フェスなんかで、この「夏休みは終わらない」を歌って欲しい。夕方5時台に、ちょっと綻びのある生の歌声で聴けたなら最高だ。だって、今も僕の心は、終わらない、いや… 終わりたくない夏休みだから。

2019.08.31
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カタリベ
1972年生まれ
古木秀典
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