スリー・ストーリーズ by Re:minder
夏の終わりのエバーグリーン ③
夏休みは終わらない / おニャン子クラブ
夕方5時の革命「夕やけニャンニャン」 女子高生たちの放課後の喧騒は、1987年8月31日、夏休み最後の日に終わった。そう、フジテレビ系で夕方5時から放送されていた『夕やけニャンニャン』である。当初、番組内のアシスタントという位置付けで結成されたおニャン子クラブは瞬く間に大ブレイク。放送開始からわずか3ヶ月でレコードデビュー。その曲「セーラー服を脱がさないで」はオリコン最高5位を記録する。
番組の当初は、片岡鶴太郎、松本小雪をメイン司会に据えたバラエティ番組だったが、おニャン子クラブの面々の飾らない素のキャラクターが番組の醍醐味となっていった。『夕やけニャンニャン』は、そんな彼女たちの放課後をのぞき見するような臨場感が溢れていた。それはまさに《夕方5時の革命》だった。
今ならコンプライアンス的にアウト? おニャン子クラブは社会現象となり、ヒット曲を連発する。「セーラー服を脱がさないで」「およしになってねTEACHER」「おっとCHIKAN!」…。令和の今ならタイトルを見ただけでも、コンプライアンス的にアウトだろうという曲が並ぶが、彼女たちの若さならではの無垢な残酷さとでも言おうか、全てを許してしまいそうな可憐さが楽曲とマッチしていた。本格的な《素人の時代》到来である。
胸がキュンと締め付けられる「夏休みは終わらない」 確かにおニャン子クラブは話題性が先行していた。ただ、楽曲も非常に練られていて、そのクオリティの高さに驚くものも多い。そんな楽曲の中でも、ファンからの人気が高く、今も語り継がれているのが彼女たちの3枚目のスタジオアルバム『PANIC THE WORLD』に収録されてる「夏休みは終わらない」である。ファンカラティーナ調のアップテンポなダンスビートに、青春の残像を見事に描いた秋元康のリリックが溶け合い、独特な世界観を醸し出している。
メロディやアレンジはアーバンな雰囲気すらあり、歌い方も極めてクールなのだが、胸に切なさや甘酸っぱさが募る不思議な曲だ。メインボーカルは、内海和子(会員番号13)、永田ルリ子(会員番号18)、岩井由紀子(会員番号19)、渡辺満里奈(会員番号36)の4人。
・こわれかけていた扇風機
・赤いウオーターメロン
・花火
・厚いドリル
・忘れられたパラソル
ーー といった、夏と青春のマスターピースともいえるワードの連発に胸がキュンと締め付けられる。
VIDEO
青春の残像を思い起こさせる名曲 特筆すべきは、メインボーカルのソロパートの素晴らしさだ。まず1番の「♪海を抱きしめた西向きの部屋 少し壊れかけていた 扇風機」は岩井由紀子が歌う。彼女の舌足らずの歌い方が、一所懸命さと相まって、夏の儚さを思わずにいられない。
2番の「♪入江近くの秘密の場所で 叱られている花火を試したね」を歌うは内海和子。お姉さん枠の彼女が、ひと夏の成長を体現する。ちなみにこのパート、番組終了から3週間後の1987年9月20日に行われたファイナルコンサートでは工藤静香が歌っている。
そして3番の「♪古いラジオでは 次の台風 北上すると伝えてた」は永田ルリ子だ。ここでは夏が終わってしまう切なさを外連味なく伝えようとしているのが良い。
また、渡辺満里奈は2番から3番のブリッジ部分で「♪恋は まるで 忘られたパラソル」と、この曲の重要なソロパートを情感たっぷりに歌い上げる。恋が成就しない甘酸っぱさこそが青春であり、この思いを持ち続けることで 「夏休みは終わらない」ことを今も教えてくれる。
そう、この曲は、メロディー、リリックもさることながら、ボーカルパートの演出も細部まで練り上げられ、青春の残像を思い起こさせる名曲として今も輝きを放ち続けているのだ。
番組の最終回で歌われた「夏休みは終わらない」 「セーラー服を脱がさないで」や「およしになってねTEACHER」の悪戯っ子っぽさがおニャン子クラブのパブリックイメージなのかもしれないが、この「夏休みは終わらない」こそが彼女たちの本質だと思えてならない。普通の女の子たちのありふれたひと夏の青春。それが垣間見られたのが『夕やけニャンニャン』だったし、だからこそ多くのティーンエイジャーが夢中になった。
番組の最終回、『夕やけニャンニャンファイナル』でも「夏休みは終わらない」は歌われた。それは、2年4ヶ月続いた番組の喧騒を総括するにふさわしいエンディングで、そこには夏が終わってしまうという焦燥感があった。この時に感じた、“この夏が終わらなければいいのに…” という思いは、今も心に残っている人が多いのではないか。
歌のエンディングにある「♪秋が近づいても 僕の心は 終わらない夏休み」は、人生が秋になっても、自分の心の中に夏が残っていることを示唆する名フレーズだ。
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2025.08.30