夏うたを2026年の視点で再編集 vol.6
ポニーテイルは結ばない / 松本伊代
松本伊代の最高傑作?「ポニーテイルは結ばない」
デビュー曲「センチメンタル・ジャーニー」に代表されるキラキラしたイメージ。そして尾崎亜美がソングライティングを手がけ、乙女チックで夢見る少女像を描いた作品群。そんな松本伊代が女子大生になり、大人のリアルを感じ始めた頃にリリースされた曲が「ポニーテイルは結ばない」だ。
この時期は、久しぶりに筒美京平が作曲を担い、作詞の売野雅勇とのコンビが3曲続いていく。1984年の「ビリーヴ」、「あなたに帰りたい」ときて、この「ポニーテイルは結ばない」が3作目の曲となる。松本伊代の曲の中でも地味な部類だろうし、一連のヒット曲と比べたらそれほど人気がある曲ではないかもしれないが、個人的にはこれこそが松本伊代の最高傑作だと思っている。
不良少年・少女たちを切なくノスタルジックに描く売野雅勇の歌詞
曲調はロッカバラード。いわば1950年代のオールディーズ風である。彼女の髪はポニーテール。とくれば、彼氏はリーゼントに決まりだ。季節は夏の終わり。彼氏の車で渚に向かう。舞台は湘南しかないだろう。カーラジオからはオールディーズ。それに合わせてステップを踏む彼氏と、恋の終わりを感じている彼女。なぜなら、彼女には街での生活が待っているから。彼女は違う世界に生きることを決めたのだ。
「涙のリクエスト」や「ジュリアに傷心」など、チェッカーズの一連のヒット曲で知られる作詞家の売野雅勇は、不良少年・少女たちを切なくノスタルジックに描くことが抜群にうまい。根っからのシティボーイである売野には、不良であることがすでにドラマであり、ある種の憧れがあるのではないだろうか。なんて書くと、売野さんに笑われるだろうか。
この曲の歌詞には、オールディーズの名曲のタイトルが随所に散りばめられている。「♪ひとりぼっちのラストダンスね」は「ラストダンスは私に」(ザ・ドリフターズ)、「♪キャンドルが消えた時」は「シックスティーン・キャンドルズ」(ザ・クレスツ)、「♪頬にかかる涙小指で」は「ほほにかかる涙」(ボビー・ソロ)。そして、オールディーズがかかるシチュエーションは、ラジオから流れてくるものと決まっている。
モノラル感を演出している萩田光雄の編曲
編曲を担当した萩田光雄は、ストリングスを多用したアレンジを施しているが、あえてハーモニーを中域に密集させることで、温かみのあるモノラル感を演出している。これもオールディーズを感じさせるためのサウンドプロデュースだが、この発想の凄さに驚愕する。加えて、偶然にも松本伊代の歌い方には語尾をしゃくる癖がある。これはロカビリーでいうヒーカップ唱法と解釈することもできる。
物語は、西風=秋を告げる風が吹いて、「♪都会(まち)へ帰ったら この長い髪切るから」という描写で終わる。夏が終わって恋も終わる。街へ帰るのは、過去の自分と訣別するためだ。「♪裸足で恋をした」素の自分として生きることにまだ少し後ろ髪を引かれている。だから、「♪ポニーテイルは もう結べない」と、髪を切って過去を断ち切り、ヤンチャしてた頃の自分にはもう戻らないと決意するのだ。夏の終わりにはそんなドラマが似合う。
この曲が発売された1985年6月21日は松本伊代20歳の誕生日だった。少女から大人へ。そんな心の変わり目をオールディーズ風味の普遍性のあるサウンドで見事に描く「ポニーテイルは結ばない」。リリースから40年以上が経過した現在においても、夏という季節は、少女から大人へと歩み始める、かけがえのない一瞬を思い出させてくれる。
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2026.07.20