中森明菜 Best Performance on NHK
September, Vol.1(2025/09/01配信)
人気、実力ともに絶頂期を迎えていた中森明菜
NHKに残る中森明菜のパフォーマンス映像がデジタルリマスターで楽しめる『中森明菜 Best Performance on NHK』。4月から月に2回のペースで配信されており、40年前には見られなかった高画質の映像が続々と追加されている。9月1日には、次の4作品が新たに配信された。
▶︎ 十戒(1984)
『レッツゴーヤング』1984/9/2放送
▶︎ サザン・ウインド
『レッツゴーヤング』1984/9/23放送
▶︎ SAND BEIGE -砂漠へ-
『レッツゴーヤング』1985/9/8放送
▶︎ ジプシー・クイーン
『ヤングスタジオ101』 1986/9/7放送
今回は、1984年から1986年までの3年間にリリースされたシングル4曲の映像が加わった。この時期の中森明菜は、「サザン・ウインド」(1984年)以降のシングルがオリコンチャートで軒並み1位を獲得し、日本レコード大賞を2年連続(1985年、1986年)で受賞するなど、人気、実力とも絶頂期を迎えていた。一方で、制作陣を変えながら異なるタイプのシングルを次々とリリース。歌詞の世界観もワールドワイドに、アイドルからアーティストへと変化を遂げた時期でもあった。そうした背景を踏まえ、楽曲の聞きどころ、映像の見どころを紹介していきたい。
男性を力づけるように歌う「十戒(1984)」
セカンドシングル「少女A」(1982年)から続くツッパリ路線の集大成とも言われる「十戒(1984)」。映像でも、中森明菜の表情からは笑みひとつ見られず、真剣に男性を力づけるようにクールな言葉を連発しながら歌い上げている。
その極致が、1番、2番のラストで聴かせる決め台詞。「♪坊やイライラするわ」、「♪いいわ冗談じゃない」と歌う中森明菜からは、迫力を通り越した凄みを感じる。もはや「少女A」とは別人格。司会者の中森明菜 “ちゃん” という紹介に違和感を覚えるくらい、堂々と歌い上げている。また、名ギタリストである高中正義が作曲したインパクトあるメロディーも、中森明菜の凄みを引き出すのに一役買っている。
シングル初のリゾートソング「サザン・ウインド」
「十戒(1984)」の前のシングルは「サザン・ウインド」。曲の舞台は南国風リゾートで、玉置浩二が作曲したシティポップ風のメロディーと、瀬尾一三によるストリングスとシンセサイザーが調和したエキゾチックな作品である。リゾートソングを歌うアイドルといえば松田聖子の印象が強いが、中森明菜もアルバムでは何曲か歌っており(「Bon Voyage」「100℃バカンス」など)、明るい恋愛模様が歌われている。
しかし、この曲のテーマは恋愛ではなく挑発。誘惑しなれた男たちにウインクしたり、白いヨットの上の美少年に手を振ったりと、歌詞の女性はリゾートを満喫しながら挑発を繰り返す。映像でも、肩を露出した衣装をまとい、時折笑みを浮かべて楽しそうに歌う姿で、画面越しに挑発してくる。男を戒める「十戒(1984)」から一変し、自由奔放な表情で歌う中森明菜は、とてもチャーミングだ。
エキゾチック路線を追求した「SAND BEIGE -砂漠へ- 」
リオのカーニバルを舞台にした「ミ・アモーレ〔Meu amor é…〕」(1985年)の次のシングルが「SAND BEIGE -砂漠へ- 」(1985年)。リリース当時は、サハラ砂漠を舞台にしたシングルを出したことに心底驚いた。アラビア風のメロディー、民族楽器を用いたアレンジ、歌詞に登場するアラビア語に加え「♪火の鳥」「♪星屑」「♪ラクダ」といった歌詞が異国情緒を醸し出し、エキゾチックな想像をかき立てる。歌詞の女性は、情熱的な愛を歌い上げた「ミ・アモーレ〔Meu amor é…〕」から一転し、傷心旅行で砂漠を訪れている。呪文を唱えるように一息で歌い上げるサビが圧巻で、中森明菜のミステリアスな一面が味わえる。
映像の見どころは、やはりサビ。しかもシングルとは異なる2番の歌詞を先に歌い、リフレインで1番の歌詞を歌うのだ。歌う時間が限られるなか、両方の歌詞を聴かせたいという意思を感じる。曲に合わせた中東風の凝った衣装や、歌い終わった後に見せる安堵の笑顔も見どころだ。
世の中を達観した女性を表現した「ジプシー・クイーン」
最後は、1986年にリリースされた「ジプシー・クイーン」。愛を失って現世に絶望し、来世に期待する女性の心情が歌われる。傷心してサハラ砂漠を旅する「SAND BEIGE -砂漠へ- 」の女性に対し、「♪振り向く私はもう 化石になってもいい 貴方と次の星座(ほし)で逢えるまで」と、未来への時間旅行を夢見ている。
そう、この曲の中森明菜は、世の中を達観した女性を見事に演じている。今回配信された映像は『ヤングスタジオ101』で放送されたフルコーラスの「ジプシー・クイーン」。悲しみを封印して舞い踊るように歌い、時に虚空を見上げたり、目をつぶったり、薄ら笑いを見せたりしながら、歌詞の世界観をとことん表現している。ところどころでビブラートを効かせた歌声も絶品。曲の最初と最後で披露される上半身を反らせた “明菜流イナバウアー” も見どころだ。
多様なタイプの女性を演じ分けた中森明菜
以上、9月1日に配信された4曲について、曲に登場する女性にスポットを当てて紹介してきた。さまざまな境遇や環境に置かれた女性に憑依するごとく歌う中森明菜は、まさに表現者。制作陣や曲の舞台を次々と変え、自分の新たな一面を切り拓く過程が強く伝わってくる。アイドルからアーティストへと変化を遂げたこの時期の中森明菜は、多様なタイプの女性を演じ分けて表現力を磨き、歌姫としての存在感を高める過程だったように思えてならない。
<参考文献>
・オマージュ〈賛歌〉to 中森明菜 / 島田雄三・濱口英樹(シンコーミュージック 2023年)
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2025.09.21