7月21日

【佐橋佳幸の40曲】渡辺美里「センチメンタル カンガルー」と “UGUISS” の関係

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3回にわたってお届けしてきた突如解散した伝説のバンド “UGUISS”【佐橋佳幸、柴田俊文、松本淳】濃厚鼎談はお楽しみいただけましたでしょうか? まだ J-POP という言葉すらなかった80年代初頭にバンド “UGUISS” でプロデビュー。以降40年間、ひと時も休むことなく第一線で活躍してきた佐橋佳幸の活動は日本の音楽シーンの歴史そのもの。今回からはその40年の歩みを【佐橋佳幸の40曲】と題してお届けしていきます。お楽しみに!

連載【佐橋佳幸の40曲】vol.1
センチメンタル カンガルー / 渡辺美里
作詞:渡辺美里
作曲:佐橋佳幸
編曲:佐橋佳幸
ホーンアレンジ:清水信之

渡辺美里のデビューアルバム『eyes』にギタリストとして参加


佐橋佳幸の歴史を語る上で忘れてはならないキーパーソンのひとりが渡辺美里だ。彼女もまた、この連載に何度か登場した都立松原高校出身。清水信之、EPO、佐橋の後輩にあたる。そんな縁もあって、佐橋を最初に美里に引き合わせたのも我らが “清水センパイ” だった。かくして1985年、美里のデビューアルバム『eyes』収録の「きみに会えて」にギタリストとして初参加。ほどなくバンドの一員としても全国ツアーに帯同し、清水ともども長年にわたり美里の活動を支えていくことになる。

当時の佐橋はUGUISS解散後に始めたスタジオセッションの仕事も軌道に乗り、作・編曲家としてもめきめき頭角を表しつつあった。当初はギタリストとして参加した美里のプロジェクトだったが、彼女の3作目の『BREATH』(1987年)からは演奏だけでなく作・編曲も担当。EPICの若手アーティストたちも数多く参加していたソングライターチームの一員に名を連ねることになった。



「当時の美里のソングライター陣というのは小室哲哉がいて、岡村靖幸がいて、大江千里がいて…。すでにデビューしていた人たちも含めて、新しい才能がずらっと揃っていた。そのあたり、ちょっとモータウン的な雰囲気でもあったよね。あれは完全に小坂さん(小坂洋二、プロデューサー)のアイディア。いわゆる名のある職業作家とかではなく、“これからこいつらの時代が来る” と小坂さんが信じていた若手をどんどん起用していたんだよね。作詞家も、川村真澄さんや戸沢暢美さんのような人を見出してどんどん起用して。

そういうわけで、僕の印税生活もそこでスタートするわけです(笑)。あの時代、とてつもない超人気者のアルバムで2曲書いたわけだからね。すごい経験でしたよ。ちょっと前にレコードが売れず同じEPICをクビになったのに、まさか自分の曲が入ったアルバムがチャートで1位になるなんて…ね」

佐橋佳幸、自身の “仕事” としての1曲は「センチメンタル カンガルー」


数えきれないほどある美里とのコラボレーションの中、自身の “仕事” として1曲をあげるなら? そう尋ねると、佐橋はちょっと考えた上で「センチメンタル カンガルー」をあげた。

社会現象とまで言われた大旋風を巻き起こし怒涛の快進撃を続けていた渡辺美里が、その波の真っ只中の1988年にリリースした4作目の大ヒットアルバム『ribbon』。“戦後最大のポップアルバム” というセンセーショナルなキャッチコピーも話題となったこの作品のオープニングを、「センチメンタル カンガルー」が飾っていた。と同時に、佐橋が美里に提供した初のシングル曲でもあり、ソングライターとして佐橋にとって初のトップ10ヒットでもあった。



「最初はシングルになることも決まっていなかったし、アルバムの中の候補曲として書きはじめたの。当時は宮原学くんや鈴木祥子ちゃんのスタジオやライブ、他にもスタジオセッションや編曲の仕事…。同時進行でいくつもプロジェクトを抱えて、超忙しい時期だったんだけど。前作の『breath』から曲を書かせてもらうようになったから、今回の『ribbon』でもいい曲を書いて絶対に採用されるぞーってものすごく張り切っててさ(笑)。

ツアー先から東京に戻るたびに家であれこれ考えては、簡単なデモテープを録ったりしていたの。その頃、誰かに「サハシ、またギターリフの曲作ってよ」って言われたんだよね。ローリング・ストーンズの『スタート・ミー・アップ』みたいな、ああいう衝撃的なギターのイントロで始まるような曲が聴きたいって。前の『BREATH』で書いた『Happy Together』という曲もギターリフで出来た曲だったから、なんかオレ、そういうタイプの曲担当…みたいなイメージもあったのかな。言われてみればギタリストだからギターリフの曲は他の誰より得意だし、いいかもしれないなぁ…なんてことを思ってた。

ある日、ツアー先のホテルへの帰り道だったかな、道を歩いていた時に突如ひらめいたの。あの、♪ガガガガッ〜 というイントロが。一瞬にしてコードの押さえ方まで全部アタマの中に浮かんだ。“うわ、これだ!” と思って、どうしよう、どうしよう、これ、忘れないようにしなきゃ…と、あわてて公衆電話を探して。で、自分ちに電話して、留守番電話に向かって歌ったの(笑)」

念のために補足しておくと、これは昭和生まれのソングライターの多くが経験していること。今だったらポケットからiPhoneを取り出してボイスレコーダーに吹き込めばいいだけの話。でも、当時はまだガラケーすらない時代だ。ましてや超多忙な佐橋のこと。せっかく浮かんだメロディも、次の仕事場へと向かう間に忘れてしまうこともあった。そんなわけで自宅の留守番電話にコード進行まで事細かに吹き込み、さらには手元にあったメモ帳に五線譜も書き留めた。

「でもね、これ、今だからネタバレしちゃいますけど…。東京に帰ってからデモテープを作っているうちに気づいたんです。このイントロ、僕が中高生のときに大好きだったアンドリュー・ゴールドの『ロンリー・ボーイ』みたいだぞ! って。まぁ、単に ♪ガガガガッっていうところが同じというだけで、パクったというほどのことではないんだけどさ(笑)。自分の中で『ロンリー・ボーイ』が好きすぎて、あの曲のピアノリフの感じをギターリフでやってみるならば…というのが無意識のうちにあったんだろうね。



で、その前に誰かに言われた “ストーンズの『スタート・ミー・アップ』みたいな…” という言葉もどこか潜在意識にあったみたいでさ。ほら、『スタート・ミー・アップ』のリフは小節アタマの半拍前から食って入るんだけど、『ロンリー・ボーイ』のピアノリフは小節アタマ、半拍休符があって、1拍目のウラから入ってくるでしょ。『スタート・ミー・アップ』の逆。あれをギターでやってみたという、そういう感じ。最初はロックっぽく作り始めたんだけど、作っていくうちにだんだん意外とポップスっぽくなっていったんです」

佐橋がUGUISS時代からずっと追求してきた世界観


トリッキーでロックンロールなギターリフと、ウルトラポップなメロディ。そして、パンチの効いた女性ボーカル…。言うまでもない。彼自身はまったく意識していなかったとはいえ、佐橋がUGUISS時代からずっと追求してきた世界観を、よりメジャーなフィールド上で展開した敷致(ふえん)版的な楽曲。それが「センチメンタル カンガルー」だった。

「曲ができあがってみたら、これは “明るい「Sweet Revenge」だな” って思った。あくまでも自分の中では、だけどね。だったら、レコーディングはUGUISSでやりたいなと思って柴田(俊文)と(松本)淳に来てもらった。ベースは当時僕のアレンジ仕事でよく弾いてもらっていた美久月(千晴)さん。この曲を聴いてもらえばわかるように、表現したいことはUGUISS時代と変わっていない。ただ、UGUISSの頃にはまだ自分ではうまく表現できなかったけど、もうちょっと日本のオリコン事情にも適した形で曲を書けるようになってきたってことなのかなと思う。それが『センチメンタル カンガルー』だった」

さらには、この曲を聴いた清水センパイからの「この曲、オレ、ブラス入れていい?」という提言により、清水信之編曲によるダイナミックなブラスサウンドも加わった。



「この頃の美里プロジェクトはめちゃめちゃ忙しかったから、Aスタで僕の曲を録っている時に、隣のBスタでは別の曲をノブさんがやってて…みたいなことが日常だったんです。で、ある日、この曲を聴いたノブさんが隣のスタジオから“ブラス入れたら絶対いいよ。入れようよー”って押し売りに来たの(笑)。センパイがそう言うなら、まぁ、どっちみちノブさんにはオルガンを弾いてもらおうと思っていたし、だったらブラスとオルガンをいっぺんにダビングしちゃえってことになったんだけど。さすがセンパイ、結果的にブラスは大正解。

そんなこんなでこのレコーディングは迷いがなくて、めちゃめちゃ早かった。この時代にしてはびっくりするくらい、あっという間に完成した曲です。そして何よりもこの曲、この頃の美里のオーラみたいなものがちゃんとレコーディングされてるよね。いまだにこの曲がかかると一瞬にしてぱーっと華やかな空気になるもんね」

佐橋のこだわりと、美里のキュートでポップでパワフルな魅力が絡み合った運命的な名曲


結果、この曲は『ribbon』のオープニング・チューンに決まった。さらに美里本人も出演するUCC CAN COFFEEのCMソングにも起用され、アルバムから4枚目のシングルとしてリリースされた。子供の頃からヒットチャート好きだった佐橋のマニアックなこだわりと、美里のキュートでポップでパワフルな魅力とが有機的に絡み合った運命的な名曲。ライブでもレコーディングでも確かな信頼感の下、濃密なタッグを組んできた者どうしならではのリアルな躍動感がここにはあった。

アルバム『ribbon』は週間チャートで1位、1988年の年間アルバムチャートでは3位を記録。「センチメンタル カンガルー」も週間シングルチャートで9位を記録した。

「この曲が売れたおかげで、僕は初めて楽器車を買ったんです。みんなからは “カンガルー号” と呼ばれていました(笑)」


次回【桐島かれん「Traveling Girl」とプログラマー藤井丈司との出会い】につづく

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2023.11.04
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カタリベ
1964年生まれ
能地祐子
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