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角松敏生プロデュース、新しい時代のビッグバンド — TOKYO ENSEMBLE LAB

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TOKYO ENSEMBLE LABのアルバム「Breath From The Season」がリリースされた日
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photo:SonyMusic  

2018年4月25日、角松敏生がニューアルバム『Breath From The Season 2018』をリリースした。これまでに彼は自分が1980年代に発表した作品群のなかから、その意味を改めて今に問い直そうとする作品を発表し続けている。

『SEA BREEZE 2016』は、デビューアルバム『SEA BREEZE』(1981年)のオリジナルの演奏に現在のクオリティでヴォーカルを入れ直し、本来表現したかった世界観を伝え直そうとした作品。そして『SEA IS A LADY 2017』は、ギタリストとして彼がリリースしたインストゥルメンタルアルバム『SEA IS A LADY』(1987年)の表現・クオリティを、より深化させたリメイクアルバムだった。

『Breath From The Season 2018』もリメイクアルバムには違いないが、先行する『SEA BREEZE 2016』や『SEA IS A LADY 2017』とは、その立ち位置がかなり違っている。前の2枚は、基本的にオリジナルアルバムの忠実なリメイクだったけれど、『Breath From The Season 2018』は、『Breath From The Season』(1988年)というアルバムのリメイクというよりも、インスパイアードアルバムと言うべき作品なのだ。

そもそも『Breath From The Season』自体が異色のアルバムだった。80年代後期、角松敏生はアーティストとしての表現スタイルを確立させるとともに、その表現の幅を広げる活動に力を入れはじめていた。『SEA IS A LADY』もそのひとつだった。

当時、インストゥルメンタルアルバムは売れないと言われる中、『SEA IS A LADY』はシャープなスピード感と快適なグルーヴにあふれたクオリティの高いサウンドで、リスナーに支持され予想以上のセールスを記録した。その背景には、時流を追わなくても良い音楽は伝わるという彼の信念があった。

『SEA IS A LADY』は、角松敏生のプロデューサーとしての資質と姿勢を示したアルバムだったし、彼自身もこの成功に自信を得たのだろう。88年に彼は自らの新レーベル “Om(オーン)” を設立し、本格的にプロデューサーとしての活動に取り組んでいった。そして、この Omレーベルのファーストリリースとなったのが、TOKYO ENSEMBLE LAB のアルバム『Breath From The Season』だった。

TOKYO ENSEMBLE LAB とは、日本を代表するジャズトランぺッターのひとりである数原晋が率いるビッグバンド。数原晋と角松敏生は世代こそ離れているがスタジオワークを通じて交流があり、角松敏生は数原にリスペクトの念を抱いていた。

しかし、1988年という時点で、ビッグバンドのジャズアルバムを出すことは、インストゥルメンタルアルバム以上にリスキーだと思われた。第一、ビッグバンドという演奏スタイルそのものが、もう過去のものと思われていたし、レコーディングスタジオでも、打ち込み主体のデジタルミュージックが幅をきかせるご時世に、大勢の腕利きプレイヤーを必要とするビッグバンドサウンドは、コスト的にも割があわないと考えられていた。

だが、ビッグバンドには他の演奏スタイルでは表現できない音楽的魅力があることを、角松敏生は知っていた。幸運にも彼は、思春期にジャズを通過することがあたりまえだった最後の世代だったのだ。新しい時代に通用するビッグバンドサウンドを作ることは、きっと出来るはずだ―― そのキーワードはダンスミュージックだった。かつてのスウィングジャズ全盛期、ビッグバンドはダンスバンドでもあった。とすれば、80年代のダンスフロアにふさわしいビート感をもったビッグバンドミュージックをつくればいい。

角松敏生のプロデューシングのもと誕生したアルバム『Breath From The Season』は、ジャズアルバムとしては異例の大ヒットを記録した。ジャズファンだけでなく、音楽的刺激を求めていた若い世代にも、ゴージャスで感性にフィットする新鮮なサウンドとして受け入れられた。このアルバムを聞いて、ジャズやプラスセクションの魅力に目覚めたという若いプレイヤーも多かったという。

80年代の終わりから90年代にかけて、多くのヒット曲を世に送り出す音楽プロデューサーが脚光を浴びていった。そして、角松敏生もその一人とされることが多かった。実際に、彼はいくつものプロデュース作品を発表している。

しかし、彼のプロデュースワークを見ていって強く感じるのは、時流を追って作品をつくるのではなく、彼自身が表現したいテーマを高いクオリティの作品の形にして、時代に問いかける、という姿勢に貫かれていることだ。

だから、そうした彼の作品には記録的大ヒットとなったものは少ない。しかし、アーティストに厚化粧をさせるのではなく、本人が持っている個性をブラッシュアップし、クオリティを上げることで、それらの作品はアーティスト自身のキャパシティを広げ、その後の活動につなげる役割を果たしていた。
 
『Breath From The Season』は、プロデューサー角松敏生の本格的な出発点を示すアルバムであると同時に、彼のジャズに対するリスペクトを示したアルバムでもあった。このアルバムから30年後に発表された『Breath From The Season 2018』は、角松敏生のアーティストワークをビッグバンドのスタイルに置き直したコンセプトアルバム。本田雅人をはじめ第一線の管楽器奏者が結集した21世紀のビッグバンドサウンドで描く角松敏生の世界が堪能できる。

アルバムを聴き終わった時、角松敏生のパフォーマーとしての成熟や、本気でジャズに向き合う姿勢とともに、彼の音楽表現に真摯に向き合う姿勢が、80年代から現在までまったくブレていないことを、僕は改めて確信した。

2018.05.04
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