解剖室という劇中名で描かれたザ・スターリン 3月27日より公開中の映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』は、1970年代後半から1980年代前半の東京アンダーグラウンド・シーンを舞台にした青春群像劇だ。本稿では、劇中 “解剖室” というバンド名で登場するザ・スターリンについて記していきたい。
ザ・スターリンはバンドの主要人物、遠藤ミチロウ(劇中名:未知ヲ)が1979年に結成した “自閉体” を母体として1980年に結成された。翌1981年には限定2,000枚プレスのファーストアルバム『trash』をリリース。漫画家の宮西計三が描く耽美的なエロティシズムを感じるカバーアートがその世界観を物語っていた。『trash』は長きにわたり中古レコード市場でかなりのプレミア価格がつけられていたが、2020年におよそ40年の時を経てリイシューされている。ちなみにこの『trash』の1曲目に収録されていたのが、劇中のバンド名にもなっている「解剖室」だ。
過激なパフォーマンスは観客との究極のコミュニケーションとは? ザ・スターリンのステージでは、爆竹や花火、果ては豚の臓物や生首までもフロアに投げ込んだり、遠藤ミチロウが全裸になり放尿したりという過激なパフォーマンスを繰り返す。その噂はライブハウス界隈に留まらず、女性週刊誌がその現状をレポート。その過激なパフォーマンスから、変態バンドというレッテルを貼られる。
確かに、奇行とも捉えられるパフォーマンスだが、これは、ステージのザ・スターリンと観客との究極のコミュニケーションだったように思う。愛憎入り混じる中で、強烈な体験により五感の全てが研ぎ澄まされる。そんな戦慄の中で観客は何を見出すのか… 。遠藤ミチロウは「STOP GIRL」という曲の中でこんな風に歌っている。
おまえは帰るとこがない
だからここにいる
オレは行くべきことがない
だからここにいる
Oh Oh Oh Stop Girl
Oh Oh Oh Stop Girl
Oh Oh Oh
いやだと言っても 愛してやるさ
この「♪いやだと言っても 愛してやるさ」という言葉が、当時のザ・スターリンのステージを最も的確に表現しているだろう。後に遠藤ミチロウはザ・スターリンのデビューから解散までの心情を『嫌ダッと言っても愛してやるさ!』(ちくま文庫版)というエッセイ集の中で吐露している。
VIDEO
アルバム「STOP JAP」でメジャーデビュー 音楽性以外の話題が先行しがちなザ・スターリンであったが、旧ソ連の最高指導者をバンド名の由来としているような理知的な一面もバンドの大きな特徴だった。「革命的日常」や「先天性労働者」といった曲名から想像できるように、かつて若者たちのエネルギーが世間をアジテートした学生運動のような、権力に抗う闘争意識を感じさせた。曲調はシンプルなパンク、ロックンロールのスタイルをベースしたものが多く、歌詞の世界がダイレクトに聴き手に届いた。
ザ・スターリンの様相は、カルチャー誌『宝島』(JICC出版局 / 現:宝島社)でも頻繁にレポートされていた。これを読む全国の音楽フリークは、東京では大変なことが起こっている!と感じたことだろう。ザ・スターリンのライブは、着実に動員を増やしていく。そして1982年7月にリリースされたメジャーデビューアルバム『STOP JAP』はオリコンアルバムチャート最高位3位を記録。バンドは1985年に解散するが、その後、遠藤ミチロウがソロ作品をリリースする傍ら、バンドとしては、ビデオ・スターリン、スターリンと名義を変えながら1990年代初頭まで活動が続いてゆく。
日本のオルタナティブの精神的支柱となった遠藤ミチロウ 映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』の中でも、遠藤ミチロウのエネルギッシュなステージングがリアリティを持って描かれている。彼の存在も東京ロッカーズと同じように、後世に伝えるべき東京のアンダーグラウンドで起こったDIY(Do It Yourself)の記録である。そう、ザ・スターリンもまた、自分だけのやり方で自分の音を鳴らし続けたのだ。
遠藤ミチロウは、バンド解散の1993年以降、ソロ活動に入り、小さなライブハウスもバーも厭うことなくギター1本で全国をまわることを活動の主軸にした。そしてこのスタイルは晩年まで続くことになる。その孤高なスタンスはいつしか日本のオルタナティブの精神的支柱となっていった。
ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。 ▶ 公開日:2026年3月27日
▶ スタッフ:
監督:田口トモロヲ
原作:地引雄一「ストリート・キングダム」
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
▶ キャスト:
峯田和伸、若葉竜也、吉岡里帆、仲野太賀、間宮祥太朗、中島セナ、神野三鈴、浜野謙太、森岡龍、山岸門人、マギー、米村亮太朗、松浦祐也、渡辺大知、大森南朋、中村獅童
▶ 企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
▶ ⓒ 2026 映画『ストリート・キングダム ⾃分の⾳を鳴らせ。』製作委員会
▶ 映画・ミュージカルのコラム一覧はこちら!
2026.04.02