数年前、年の瀬の南青山での出来事。
国道246号線(青山通り)に面した空き地、スパイラルホールの並びの屋外イベントスペースに、ランボルギーニ・ウラカン LP610-4 スパイダーが御目見えし展示されていた。
ボンネットからフロントウィンドウへと連なる流線形が美しい未来的なデザイン。ライトグリーンの斬新な新色の他に見覚えのある赤や漆黒のカラーリング、猛牛の力強いエンブレムはまさにランボルギーニの証だった。我こそが車の王であるという強すぎる意思表示。
しかし、何かが違う――。
そう思ったのは僕たちがスーパーカーブームにズッポリと浸かっていた世代だからだろう。頭の中に真っ先に浮かぶスーパーカーといえばランボルギーニ・カウンタック!
地を這うような低い車高、刃(やいば)の如く風切るフォルム。最高速度、時速300キロでロケットみたいに一直線に突っ走る、まるで兵器のような車。そう、それこそがスーパーカー=カウンタックなのである。
かつて小学生だった僕たちはテレビや雑誌でしかその雄姿を見ることが出来なかった。都心部に住んでいたせいか、偶然、幹線道路を走る実物を見かけたこともあるにはあったが、ノロノロと目に見える速さで走るカウンタックは本物じゃないと子供心にそう思っていた。
でも、その当時、僕たちができることと言えば BOXY のノック式ボールペンのバネを二重にし、強烈にチューンナップした反発力でレーシングコースに見立てた勉強机の上を「スーパーカー消しゴム」を走らせるのが関の山。時速300キロに対する憧れは募るばかりだった。そんな昭和40年生まれの子供たちのフラストレーションを一気に解消してくれたのが映画『キャノンボール』(1981年)である。
オープニングからエンジン全開! カウンタックをブッ飛ばすシーンで一気に持っていかれる。一直線に伸びるアメリカのハイウェイを疾走する漆黒のカウンタックが美しすぎる。シザースドアが開き、ドアの隙間から現れる金髪美女のすらりとした脚。そして、パトカーとのカーチェイス――。
その頃、中学生になっていた僕は映画の中でファラ・フォーセットに恋をして、バート・レイノルズのようなマッチョマンになりたいと本気で願った。もちろん雑誌の広告で憧れた全身を筋肉にするマシン・ブルワーカーを手に入れたいとさらに夢想する。だけど男っていうのは、ただかっこ良ければいいわけじゃない… ジャッキーのように愛想よく、マイケル・ホイみたいに面白くなくちゃいけないんだ。
そして、この映画のサウンドトラックがこれまた最高! 大御所、レイ・スティーブンスが歌うテーマ曲がカウンタックを一気に加速させる。
If you got the soul you can make it
Move-em out
Let 'em roll
From sea to shining sea
Ball(Ball)
Cannonball(Cannonball)
もしこれが、日本映画ならば北島三郎の「まつり」を充てるしかない!
音楽とエキゾーストノートが見事なまでに融合し、夢のスーパーカーは思春期のモテたい症候群の少年たちの夢を乗せて一気に跳ぶ! それは、時速300キロを初めてリアルに感じた瞬間だった。
CINEMA DATA
『キャノンボール(The Cannonball Run)』
■監督:ハル・ニーダム
■出演:バート・レイノルズ、ドム・デルイーズ、ファラ・フォーセット、サミー・デイヴィス Jr.、ディーン・マーティン、ロジャー・ムーア、ジャッキー・チェン、マイケル・ホイ、ほか。
■日本公開:1981年12月26日
※2016年3月9日に掲載された記事をアップデート
2018.12.26
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YouTube / DagobahZone
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