83年夏のキャンペーンは、レコード売上データから見れば、まちがいなく【資生堂vsカネボウCMソング戦争】のピークであった。スポンサー・レコード会社・マスメディアの三者が作り出したシステムが、史上最も効力を発揮した瞬間であったともいえる。
4/1にリリースされた資生堂CM曲は、シャネルズあらためラッツ&スターの「め組のひと」(作詞:麻生麗二、作曲:井上大輔 / 作詞の麻生は、売野雅勇の別名)。江戸の町火消し「め」組をもじっての鯔背な広告モデルには、前年夏に続いてトリー・メンドーサが起用された。
結果、オリコンチャート1位、TBSザ・ベストテン1位、売上80万枚と、ラッツ&スターとしての初めてのシングルを記念する大ヒットとなった。サビを歌いながら目の横でVサインをする振り付けも、皆んながマネをしていたものである。
一方、ライバルより1週早い3/25に発売のカネボウCMソングは、YMO「君に、胸キュン。」(作詞:松本隆、作曲:細野晴臣・坂本龍一・高橋幸宏)であった。広告モデルは相田寿美緒。
こちらの曲もオリコンチャート2位、TBSザ・ベストテン3位、YMO最大のシングルヒットとなった。何より、いまだに使われる「胸キュン」という言葉が、この曲から生まれたのはまぎれもない事実である。その意味では後世に残した影響も大きかった。
過去にもこの二社のCM曲がチャート内で争うことはあったが、83年夏のキャンペーンは、本当に二社の曲がチャートの首位を争うような状況だった。また、それぞれの曲が、それぞれのバンドにとって、共に次なるステージにさしかかるキッカケにもなっていた。
シャネルズは名前をラッツ&スターに変えて、顔の黒いスミを落とし、新たなイメージへの脱皮をはかろうとしていた。YMOはデビュー時の人民服を脱ぎ捨て、西武セゾンを信奉するようなネオ・ミーハー層を相手に、浮かれたダンスを披露していた(このころの、YMOメンバー間の確執はさておき… また、PVの1番にはCMタレントの相田寿美緒も登場しているのでチェックされたし)。
しかし、もはやCMソング等のイメージだけで差別化できる時代は終わりつつあった。CM曲のヒットやタレントの人気が、必ずしも商品のヒットに結びつくわけではない。
それなのに、ポスターやチラシなど見た目のインパクト、販売店の店員に説明するときの分かりやすさなど、流通対策として営業部門からの要求が強く、タレントを使ったベタな広告は、止めようとしてもなかなか止められない。宣伝部員もサラリーマン、曲がヒットしていると、とりあえず社内報告がしやすい。
さらに、浮かれた夏祭りのサウンドが鳴り響くそのウラで、着々と第3勢力が、イメージ戦略にとらわれない、機能性や効果に重点を置いたプロモーションを始めていた。
そう、花王である。石鹸やトイレ用品を柱に成長してきた花王は、ビオレ洗顔フォームをとっかかりに、前年82年に皮膚生理に根ざした基礎化粧品ブランドのソフィーナを市場に投入する。そして94年にメイクアップ用品のAUBEでコスメ市場で一気にシェアを拡大してゆく。
この時点でカネボウは、まさか21世紀になって、栄光の化粧品部門が花王に買収され、子会社にされてしまうなどとは夢にも思わなかったであろう。
2017.01.23
YouTube / Glory 昭和CM チャンネル
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