やっと秋田に上陸した「ベストヒットUSA」２年遅れの３週遅れ！

民放が２局しかなかった秋田！

テレビのない生活をおくるようになって十数年になるが、それでもまったく退屈しないのはエンタメが世にあふれているから。音楽に映画、書籍、動画やゲーム、それらをインターネット越しに味わえるのは、ある意味、贅沢なことだ。もちろん、どれもライヴで味わうにこしたことはないが、それでも便利な時代になったことを痛感する。

そんな自分にもテレビに頼っていた時代はあった。生まれてから1986年まで秋田で暮らしていたのだが、田んぼや畑が広がり、チャリで農道を通ると時おり肥溜めの匂いがする、そんな田舎に暮らしていたハナタラシにとって、テレビは主要な娯楽のひとつだった。

しかし、だ。田舎ではテレビ番組がなんでもかんでも見られるワケではない。当時の秋田では民放が２局しかなかった。フジテレビ系局と日本テレビ系局のみ。TBSとテレビ朝日、テレビ東京の番組は、その２局で夕方や深夜の時間帯に見ることができたが、視聴できるものは限られていた。

見られたとしても、東京での放送からタイムラグがある。『３年Ｂ組金八先生』は２年遅れての放送で、そのとき東京ではセカンドシーズンが放送されていた。まあ、見られただけラッキーだ。『８時だョ！全員集合』『ザ・ベストテン』は放送されていなかったから見たことがない。雑誌を読んでいて、そういう番組があることは知っていたが、「東村山音頭」や「ヒゲのテーマ」をブラウン管越しに見ることはなかった。ネットワーク格差―― 当時の日本には確かにそれがあった。

２年遅れで「ベストヒットUSA」放送スタート！

そんな状況ゆえに、洋楽に熱中していた高校生のときに、テレ朝系列の『ベストヒットUSA』の放送が1983年４月に始まったのは本当に嬉しかった。音楽誌を読んでいたから、アメリカでMTVがブームになっていることは知っていたし、それに倣った番組が東京で放送されていることも気になっていた。やっとMTVが秋田にも上陸した。東京での放送から３週間遅れての放送だが、気にしないぜ！

いや、もう本当に夢中になった。マイケル・ジャクソンのアルバム『スリラー』からのヒット曲はどれも眩しかったし、動いているデュラン・デュランやカルチャー・クラブはファッショナブルだった。デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ「カモン・アイリーン」の汚らしい恰好でさえ素敵に見えた。それらは今も脳内で４Ｋ・８Ｋ映像なみにクリアに脳裏に焼き付いている。

VJ は小林克也、マドンナ？ 違うぜ、“マダンナ” だ！

そして言うまでもなく、VJ の小林克也氏の存在が大きい。失礼を承知で言わせてもらうと、最初はファニーなルックスの方だなあと思ったものだ。しかし、英語の先生のような発音が、なんだかとってもかっこよかった。マドンナ？　違うぜ、“マダンナ” だ！

今も覚えているのは、シンディ・ローパーがゲストで出演したときのこと。彼女のトレードマークであるハリウッド・スマイルを、小林氏が真似た、その顔には爆笑してしまった。かっこいいと思い込んでいた洋楽番組が、お笑い番組と化した貴重な瞬間。そのとき、この番組の魅力は小林氏が発するユーモアにあるのだなあと気が付いた。

現在も『ベストヒットUSA』は放送されていると聞くが、テレビがない今の生活では見る術はないし、ミュージックビデオにしても見たければ YouTube で事足りる。本当に便利な時代になった。それでも時おり、好きな曲のあのビデオというようなピンポイントでは物足りなくなり、当時の『ベストヒットUSA』を改めて見てみたい欲求に駆られる。あー、“ツァイムマシ～ン” が欲しい。

2020.08.02