7月5日

サザンオールスターズのニューウェイヴ「綺麗」中村とうよう10点満点!

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photo:Victor Entertainment  

サザンオールスターズのアルバム『綺麗』(1983年)は、それまで原初的なバンドアンサンブルでレコーディングをしてきた彼らが、日進月歩だったテクノロジーの潮流へ勢いよく飛び込んだ傑作である。

80年代のポップカルチャーには、好景気に煽られて “新しもの好き” になり過ぎたがために、後世の価値観においては滑稽、軽薄、かえって安っぽく思えたりする部分がままある。また流行の周期により、その強烈な時代性が再評価を受ける場合もあり、音楽界ではここ15年ほど、ダフト・パンクやブルーノ・マーズらの活躍を背景にして Back To 80's とみられるサウンドコンセプトが旬を保っている。

『綺麗』にしても、20年ほど前よりも今聴いたほうが新鮮に響くことだろう。

本作では、十八番のラテンをはじめ、レゲエ、大陸歌謡、GS、AOR、パンカビリー、バート・バカラック風、宮川泰風など、本来1組のバンドが内包しがたい振れ幅の曲調が、80年代の皮膜をかぶって次々と出現する。

歌詞のほうも雑多で、欧州のファンタジーを連想させる「マチルダBABY」で幕を開けるが、その後は中国残留孤児を題材にした社会派のものや、実在のアイドルシンガー(弘田三枝子)に想いを馳せたものなどまで横並びになっていく。真の意味でサザンが、何を演ってもあり得るバンドになったのは本作からだ。

[収録曲]
01. マチルダBABY
02. 赤い炎の女
03. かしの樹の下で
04. 星降る夜のHARLOT
05. ALLSTARS' JUNGO
06. そんなヒロシに騙されて
07. NEVER FALL IN LOVE AGAIN
08. YELLOW NEW YORKER
09. MICO
10. サラ・ジェーン
11. 南たいへいよ音頭
12. ALLSTARS' JUNGO (Instrumental)
13. EMANON
14. 旅姿六人衆


■ 桑田佳祐の進化を示す怪作「EMANON」

サザンは、2005年に「勝手にシンドバッド」(1978年)から「TSUNAMI」(2000年)までの CD シングルをマキシ仕様で一斉再発し、全作同時オリコンチャートインという快挙を成した。このとき44作中の最下位は、『綺麗』からのシングル「EMANON」だったと記憶している。

当初の発売時も最高位24位と不振。アルバムと同時発売、かつ差別化されなかったジャケットデザインからして、スタッフが売り込みにさほど力を入れていなかったのは間違いないが、最たる原因は、NO NAME の逆さ読みといわれる曲名の通り、一般大衆を置いてけぼりにする謎めいた曲調にあるだろう。

キャッチーなメロディを敢えて避けるように複雑な起伏をみせる AOR サウンドの上を、桑田佳祐がプロサーファーの如くスイスイと滑り抜けていく。私見では、それまで半ば力技でもあった桑田の “日本語使い” がより流麗な手法に進化した記念碑的作品であり、ひょっとすると彼自身、セールスを度外視してでもシングルカットしたいほどの達成感があったのかも知れない。

日本語ロックの歴史は、違和感との闘いの歴史。洋楽と不釣り合いな語感を如何にして払拭するか。そのための重要素は作詞ないし歌唱法の工夫に大別できるが、考えてみれば桑田は、両面ともに既成概念を覆したアーティストである。彼が切り開いたその道を遥か後方から辿ってきた(サチモスなどの)最新世代による “日本語使い” と聴き比べても、いまだ大きな更新がないという事実を踏まえれば、35年も前に出来た本曲の凄まじさは誰にでも理解できると思う。


■ 原由子が一貫して担う「ノスタルジー」

GS 調の6曲目「そんなヒロシに騙されて」を歌うのは、原由子である。ぼくは原坊の声を聴くと、学校の教室の片隅によく置いてあった足踏みオルガンを連想する。

ダブルボーカルで録っていないときでも何故か、落ち着きのある響き(暗め)と、あどけない響き(明るめ)が同時に鳴っているように感じる不思議な声。実際、女性にしてはかなり低い音域なのだそうだけど、低く歌っても沈んでいかない。

いわば、一人の女性の中の母性と少女性が時空を超えて邂逅している声であり、いつもその響き自体にそこはかとなくノスタルジーをおぼえる(だから、普通のオルガンでなく足踏みオルガンなのだ)。「私はピアノ」(1980年)で初の単独ボーカルを務めて以来、原坊のレパートリーのほとんどが懐古趣味の曲調・詩情であるのは、おそらく桑田にとっても、ノスタルジーを誘発する響きに聞こえているからだろう。彼女に求められるものは、ニューウェイヴ真っ只中でも変わらなかった。


■ 関口和之が明かす「ごった煮ポップス」の系譜

関口和之が歌う自作の11曲目「南たいへいよ音頭」は、箸休めの役割でありながらも、歴史的見地からすると実に興味深い作風だ。後のウクレリアン関口のソロワークスに連なる点も見逃せないが、そもそも曲調も曲名も70年代の細野晴臣、大滝詠一のオマージュではないか。

ニューオリンズ R&B を土台に、様々なリズムの導入で競い合っていた元はっぴいえんどの2人。細野は無国籍のトロピカルミュージックに行き着き、大滝は国産のダンスミュージックだとして音頭に行き着いた。

80年代初頭からはご存知 YMO とロンバケを機に、それぞれがポップカルチャーを牽引する寵児に生まれ変わったわけだが、その際いったん埋没することになった2人の “70年代遺産” を、関口は敢えてこの時期にオマージュ。最新のサウンドを駆使して再構築してみせる悪戯な狙いが「南たいへいよ音頭」にはあったように思える。

捉え方によっては、このアルバム全体が形成する “ごった煮感” も、欧米のロックだけにとらわれない音楽性を模索していた細野・大滝両氏の流儀を引き継いだものだといえなくもない。


■ 当時の評価

アルバム『綺麗』は、当然ながらオリコンチャート最高位1位を記録。同年暮れの『輝く! 日本レコード大賞』ではベストアルバム賞を受賞した。特筆すべきは、発表時期の『ミュージック・マガジン』で、極めて辛辣な語り口で知られた同誌創刊者の中村とうようが「舌を巻く」と評し、稀少な10点満点をつけたことである。

ミリオンヒットの常連となった90年代以降のサザンは、国民的人気ゆえ “もはや語るまでもない” として、実質ロックジャーナリズムにおいては蔑ろにされやすくなったが83年当時はまだ、メインストリームで大成する一方で、煩型の評論家たちさえ素直に称賛せずにはいられない存在だったのだ。


※2018年4月7日に掲載された記事をアップデート

2019.07.05
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  YouTube / サザンオールスターズ


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カタリベ
1982年生まれ
山口順平
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