元祖カリスマ店員！一世を風靡した “ハウスマヌカン” とラフォーレ原宿のお正月事情

主力商品は福袋、ラフォーレ原宿は元旦も営業

お正月―― 以前『奇才と呼ばれ異端を愛したアーティスト、岸田森の素顔』で書いたように、30日あたりから正月三が日までは親戚宅で過ごすのが我が家の慣例だったが、高校生になると大晦日は内田裕也プレゼンツ『ニューイヤー ロックフェスティバル』に行くようになった。そのため、そのまま友人達と初詣に行くのが定番になった。

社会人になるとアパレル勤務だったため、基本祝日は出勤だった。一般的に、元旦は休み… という店舗が大半というなか、職場であるラフォーレ原宿は元旦から営業していた。31日は１時間早めに閉店、翌日元旦は10時開店… といった具合。日本一の初詣参拝客数を誇る明治神宮からの客を取り込む戦略だが、果たして元旦から何を売るのか？ 主力商品はズバリ “福袋” だ。

私の勤めていた会社は、だいたい28日に千葉県にある巨大倉庫に行き、福袋を作って、佐川急便に31日着の指定で売り場に届けてもらうよう手配する。着日である31日のラフォーレの中は段ボールだらけの要塞と化す。この福袋を目当てに、元旦開店前から長蛇の列が！

福袋は完売御礼、そのあとは初売り名物 “酒盛りタイム”

もっとも、寒さと近隣の迷惑を考慮して、だいたいは開店時間が早まる。開店と同時に売場は阿鼻叫喚。大体客は目当ての売場に走りだす。男女共に入り乱れる様は、まるでライブハウスの “モッシュピット” 状態。もみくちゃのなか、大声で「押さないでください!!」と必死に声を出す。

福袋は、だいたいが１時間以内に完売。これが終わるとラフォーレでは完売御礼の札を掲げて販売員たちの “酒盛りタイム” がスタートする。樽酒を割る店舗もあり、売場での飲酒が元旦はできた。お客様にも酒が振舞われ、お昼の時間帯には用意しておいた正月っぽいツマミも店内に並べられた。

さらに、お客様や近隣商店街から寿司やケーキの差し入れもあり、15時にはほとんど皆がほろ酔い気分。次から次へ各売場のスタッフが酒のボトルと食べ物を持ちながら新年の挨拶に回って来る。中には酔い潰れて着物で寝てしまう店長もいたり、拡声器で歌を歌い出したり…“ラフォーレ初売り” 名物の光景だが、当時はそれが許される、実におおらかな時代だった。

雑誌「anan」の特集で広まったショップ店員の呼称

1983年に雑誌『anan』が “ハウスマヌカン特集” を組み、この言葉が一般に広く知れ渡る。

ハウスマヌカン―― つまり販売員のことを、それぞれのブランドの “生きるマネキン” とか、モデルのように振る舞え… といわれるような流れがあった。が、幸い私のいた会社はむしろこの言葉を嫌がっていた。実際、アパレル勤務と言うと「ハウスマヌカンやってるんですね！」と当たり前に返された時代だ。

しかし、憧れのハウスマヌカン＝ショップ店員は、立ち仕事で残業多数。数字管理など付帯業務も多く、しかも売上予算は高いが給料は安い… という現実で、決して可愛いだけじゃ務まらない、どちらかと言えば体育会系に近い仕事だった。

マヌカンの悲哀を歌った、やや「夜霧のハウスマヌカン」

そんなブームを受けて1986年「夜霧のハウスマヌカン」が発売された。歌手は “やや” と言う謎めいた女性。

「夜霧のハウスマヌカン」は身をやつしたハウスマヌカンの悲哀を揶揄している歌で、わざと前川清の様にビブラートを効かせて歌うことで “プログレッシブ演歌” とも言われていた。当時の、いかにもハウスマヌカン然としたややのビブラート強調の歌唱はインパクト充分だった。

この曲をテレサ・テンがカバーしているが、しっとり儚げでより薄給で玉の輿を夢見る未婚女性の悲哀が表現されていて、いつものテレサワールドになっているところは流石である。

ハウスマヌカン消滅！変わる時代と変わらない心境

皮肉なことにバブルが弾け、この歌で歌われた「刈り上げ」や「ハウスマヌカン」という言葉がほぼ消滅した。ハウスマヌカンは90年代終わりに渋谷109で “カリスマ店員” として次のブームを生むことになる。

実際は、歌詞のようにシャケ弁当を食べてる子は見たことはなく、自炊したお弁当を持参する子のほうが多かった。まぁ、玉の輿を夢見るのは昔も今も大概の女性の願望だ。しかし、30歳直前に独身であることに焦る女性が多いのが、シングルが発売されて以来30年以上経っても変わらない心境であることのほうが驚きで、こちらには流行り廃りはない模様。




2021.01.02