「カノン進行」に続いての「源流」ネタです。また音楽的に理屈っぽい話ですいません。このような、日本ポップス史の音楽的構造分析のようなアプローチを、他であまり見ないので、一種の使命感を感じつつ、地道に書いております。ぜひ「LOVE」ボタンを押してやってください。
さて、H
2O のヒット曲『想い出がいっぱい』(83年)の話をします。いわゆる「一発屋」に数えられがちな H
2O ですが、その代表曲『想い出がいっぱい』のメロディはとても印象的で、口ずさめる人も多いのではないでしょうか。
♪ 大人の階段昇る 君はまだシンデレラさ
印象的なのは、やはりこのサビでしょう。
「♪ ミミミミ・ミミミミ・レーソソ・ー・ドドドド・ドッド・ファファミド・ドレー」。このドからソの間で動く端正なメロディが忘れられません。
しかし私は、この曲のインパクトを決定付けたのは、この後に来る、ここのメロディだと思うのです。
♪ 少女だったといつの日か
特に後半の「♪ いつの日か」に、何といいましょうか、強烈なセンチメンタリズムを感じませんか? 実はこれ、「胸キュン、♪ ミファミレド」なのです。
というように、「♪ いつの日か」の音列は「♪ ミファミレド」となっています。このちょっと上がって、少しずつ下がっていく感じが、胸をキュンとさせるのです。
他にもあります。THE ALFEE『恋人達のペイヴメント』(84年)。
♪ 長い髪 君のシルエット
の「♪(き)みのシルエット」も「胸キュン、♪ ミファミレド」。次にテレサ・テン『時の流れに身をまかせ』(86年)。
♪ 一度の人生それさえ
の「♪(じんせ)いそれさえ」もまさに「胸キュン♪ ミファミレド」(胸がキュンとしません?)。90年代の変わったところでは、globe の『FACES PLACES』(97年)の、
♪ Since 1970 lookin' for the FACE Lookin' for the PLACE
では「♪ ミファミレド」の連打。さらには、ゼロ年代に入ってからの屈指の名曲である YUKI『長い夢』(05年)の、
♪ バイバイ長い夢 そこへ行くにはどうすればいいの?
の「♪(どうす)ればいいの?」は格別の「♪ ミファミレド」ですね。
間違えやすいのは、他にもある「♪ ミファミレド」です。例えば、尾崎豊の『OH MY LITTLE GIRL』(83年)の、
♪ Oh My Little Girl
は、確かに「♪ ミファミレド」なのですが、あまり「胸キュン」な感じがしません。また、PUFFY『これが私の生きる道』(96年)の、
♪ 悪いわね ありがとね これからも(よろしくね)
もさっぱりし過ぎています。これは何かというと、コードの関係があるのです。『想い出がいっぱい』や『時の流れに身をまかせ』などは、「♪ ミファミレド」の最後の「ド」のところでマイナーコード(Ⅵm)になっていて、そのマイナーコードがセンチメンタリズムを誘発するのですが、『OH MY LITTLE GIRL』『これが私の生きる道』では、メジャーコードの方に行くので(ⅣやⅤ)、印象が変わり、さっぱりとしてしまうのです。
というわけで、80年代から日本に根付いた「胸キュン、♪ ミファミレド」の歴史とその見分け方を、ごく簡単に紐解きました。最近でもよく耳にする「♪ ミファミレド」…
ではその源流はどこにあるのでしょうか? 私の研究から、実はあの有名バンドのあの曲にあることが判明しました(続く)
歌詞引用:
想い出がいっぱい / H2O
恋人達のペイヴメント / THE ALFEE
時の流れに身をまかせ / テレサ・テン
FACES PLACES / globe
長い夢 / YUKI
OH MY LITTLE GIRL / 尾崎豊
これが私の生きる道 / PUFFY
2018.06.16