アイドルになるために生まれてきた? 郷ひろみの魅力
郷ひろみはいったい何歳になるのだろう。
プロフィールを見ると1955年生まれだから、もうとうに還暦を過ぎている。芸能人と比べるのは酷かもしれないし時代も違うのだが、自分の父親が60歳でかなりのお爺ちゃんだったことを考えると、奇跡的な若さである。一般人よりずっと若く見えるスターの中でも郷ひろみは特に秀でたひとり。体型も全然変わらないし、ドラえもんのタイムふろしきで包んでも、肌のシワが少し減るくらいで、さして変化がないのではなかろうか。
1972年に「男の子女の子」でデビューしてから50年。10歳年下の自分から見ても、デビューの頃は可愛い美少年であった。事務所の先輩であるフォーリーブスの弟分的な存在で、彼らが主演した1974年の映画『急げ! 若者』にも出演しているのだが、劇中で当時の新曲「君は特別」を歌う郷の可愛さは筆舌に尽くしがたい。太眉でキラキラした目に甘い声、しなやかな動きはまるで少女漫画に出てくる王子様のよう。アイドルになるために生まれてきたとしか思えないオーラが漂っていた。
そんな美少年も次第に男っぽさを増してきて、作詞がそれまでの岩谷時子から安井かずみに委ねられた「よろしく哀愁」から少しずつ大人の歌手へのレールが敷かれてゆく。20歳を迎えた前後の楽曲は、作曲は変わらず筒美京平でありながらも、作詞には橋本淳が登板して大人っぽい世界が展開された。
少年から大人の男に! 新たなステージに突入した1979年「マイ レディー」
そして1977年の「帰郷 / お化けのロック」は作詞を阿木燿子、作曲を宇崎竜童が初めて手がけ、次の「禁猟区」も連続ヒットさせる。同じく酒井政利プロデューサーが担当していた山口百恵同様に、阿木×宇崎コンビの作品がアーティストの成長過程で重要な役割を果たしたのだ。
1978年に「林檎殺人事件」「ハリウッド・スキャンダル」という大傑作を連続ヒットさせた後、80年代を迎える直前、1979年9月に出された「マイ レディー」から、明らかに新たなステージに突入した感がある。網倉一也が郷のドラマでの役名・唐沢晴之介名義で作詞・作曲したこの作品は『ザ・ベストテン』で5週連続1位を獲得した。変幻自在のメロディを盛り立てる萩田光雄の高揚感溢れるアレンジ、歌詞に出てくる “男と女” の一節はクールな目線で、ジャケット写真の表情にも大人の男の色気が漂う。
24歳になり、80年代に入って最初のシングルが「セクシー・ユー(モンロー・ウォーク)」というのも象徴的だ。林哲司が作曲したカップリング「朝陽のプロローグ」は隠れた佳曲。そして次のシングル「タブー(禁じられた愛)」ではいきなりカーリーヘアになって僕らを驚かせた。必要以上に拒絶反応を示すファンが多かったのは、攻めた髪型そのものよりも、少年から完全に大人の男になってしまった郷に対するささやかな抵抗であったのかもしれない。
聴いて最高! 歌って最高!「素敵にシンデレラ・コンプレックス」
続けて網倉が作曲し、作詞を阿木燿子が手がけた「How many いい顔」はカネボウ’80秋のキャンペーンソングとして大ヒットした。次の「若さのカタルシス」は少々地味ながら、阿木も出演した TBS系ドラマ『ミセスとぼくとセニョールと』の挿入歌として印象に残っている。
個人的に照らし合わせると、10代の多感な時期にリアルタイムで聴いた80年代前半の郷ひろみのヒット曲の数々は、正に体に入り込んでいる感じ。三原綱木がギターとコーラスを担当した「未完成」、エンターテイメント歌謡の極致「お嫁サンバ」、バーティ・ヒギンズのカヴァー「哀愁のカサブランカ」などなど、カラオケに目覚めた自分にとって、郷ひろみのナンバーは恰好のレパートリーだった。
とどめを刺したのが、(JRが民営化する前)国鉄の最後のキャンペーンソング「2億4千万の瞳」。カーステレオで流しながら大声で歌っていたのが懐かしい。CBSソニーからオリジナルカラオケがまとめられたカセットテープが発売された時はすぐに飛びついた。一緒に出た松田聖子のカラオケは観賞用として楽しんだが、郷ひろみの方は完全に実用盤となった。
そういった意味では、80年代の郷ひろみで密かに熱く支持している曲に1983年の「素敵にシンデレラ・コンプレックス」がある。聴いても最高、歌っても最高のゴキゲンなナンバーなのだ。大御所・阿久悠が作詞し、オフコースから独立したばかりの鈴木康博が作曲、さらにアレンジが井上堯之と甲斐正人という豪華な布陣。フリオ・イグレシアスのカヴァー「哀しみの黒い瞳」など穏やかな曲が続いていた頃だけに、この曲の開放感はひとしおだった。今でも無性に歌いたい衝動にかられて一人カラオケに駆けこむ時は、必ず歌う一曲である。
シングル「哀愁のカサブランカ」のB面に収められていたヒットメドレー「マイ・コレクション」もお薦め。
※2018年10月18日に掲載された記事をアップデート
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2022.05.12