小室哲哉の姉? それとも妻なのか? 小室みつ子の正体は…
TM NETWORKファンのFANKSたちの間で、“4人目のメンバー” と呼ばれるのが作詞家の小室みつ子。メンバーからも、みっ子ちゃんと呼ばれ、親しまれている。過去には海外レコーディングにも同行したほどTM NETWORKには欠かせない作詞家で、ほとんどの曲の作詞を小室哲哉と担ってきた。
当初、TM NETWORKでは西門加里のペンネームで作詞を担当していたが、のちに本名の小室みつ子に変更。本名で作詞を始めると小室哲哉の姉か、それとも妻なのか…なんて、FANKSの間で臆測を呼んだことが懐かしく思い出される。もちろん偶然の一致で血縁関係、親族関係はまったくない。
相性抜群! TM NETWORKと小室みつ子
TM NETWORKの作曲は小室哲哉と木根尚登が担当しているが、それぞれの曲について、小室みつ子は「木根さんの曲はメロディがすごくキレイで優しい。哲ちゃんの曲は攻撃的、知的、実験的」と語っている(『小室哲哉 TM編』ぴあMOOK)。また、小室哲哉の曲は転調を繰り返していく独特なメロディーと躍動感溢れるリズム。そこに言葉を乗せていくことはとても難しいことだが、小室みつ子曰く「リズムとメロディにバッチリ言葉がハマるからって、“ハメ屋さん”って言われたの(笑)」と自分のことを語っていて、曲との相性の良さに触れている(同 ぴあMOOKより)。
一方、木根尚登が紡ぐバラード(木根バラ)も、FANKSたちにこよなく愛されてきた。そんな木根バラでは、少女や少年の淡い恋もようや星空の情景描写が美しく描かれている。恋愛といっても、小室みつ子の歌詞には、“好き” だ “嫌い” だなんて言葉は出てこない。少しずつ大人になっていく女の子の成長に、
それ以上綺麗にならないで
…と、戸惑いとせつなさを感じる少年の想いが描かれた「Time Passed Me By」はドラマチックで、まるで短編映画のようだ。また、名バラード「Fool On The Planet(青く揺れる惑星に立って)」は、星が綺麗な日にはきまって脳内で曲が流れてくるほど筆者も大好きな曲。
星の降る小高い丘まで
今すぐに君を連れて行く
窓越しじゃ物足りないから
できるだけ夜空の近くへ
このシチエーションに憧れた女性も多かったのではないだろうか(もちろん私も!)。
その歌詞の魅力、世界観に沿うだけではない絶妙のバランス
もし、小室みつ子の歌詞が、TM NETWORKの“宇宙”という世界観を再現することだけに重きを置いていたとしたら、もっと壮大なSF色の強い歌詞になっていたはずだ。しかし、それだけではあまりにもリアリティが薄く、感動や共感は得られにくかっただろう。小室みつ子の歌詞は、宇宙やファンタジーの世界観を持ちながらも、常に人が生きることの素晴らしさを訴えかけてくる。そう、Time Machineに乗ってどの時代を生きようと、どこの国で暮らそうと、それが広大な宇宙で生きる生命体であったとしても…生きとし生けるものすべてにとって、“せつなさ” や “強さ” や “夢”や“希望” は、普遍的なものであり、だからこそ「生きること」は素晴らしいことなのだと語りかけてくる。これが今も多くの人の胸を熱くさける所以ではないだろうか。
TM NETWORKのエレクトリックなサウンドの中に、スタイリッシュな言葉と知的な単語、神話などを交えつつ、けっしてヒューマンな部分を忘れない。この絶妙なバランスこそ小室みつ子の歌詞の魅力だと思う。また、一瞬にしてそのドラマチックな歌詞の世界に引き込んでいく情景描写は特に秀逸だ。たとえば、「Get Wild」の冒頭の一節。
アスファルト タイヤを切りつけながら
暗闇走り抜ける
主語を曖昧にさせながらも、疾走感を感じさせる表現は本当にすごい。
今を生きる人たちに贈りたい「SEVEN DAYS WAR」
小室みつ子の歌詞はどの曲も素晴らしくて、その日その日で心に響く曲は違うけれど、なかでも特に「SEVEN DAYS WAR」の歌詞から私は何度も力をもらった。
誰かと争うのではなく
自分をみつけたいだけ
誰かを憎むのではなく
想いを伝えたいだけ
Seven days war 闘うよ
僕たちの場所 誰にもゆずれない
Seven days war
Get place to live
うつむかず生きるために
まさに今、豪雨被災地で闘っている人たち、逆境にある人たち、混沌とした世界を生きる人たちに贈りたい歌詞だ。
小室みつ子の歌詞に力をもらい、夢を諦めないことの素晴らしさと人の持つ強さを教わった。そして何より温かな気持ちと優しさをもらった。思春期にTM NETWORKに出会い、そして大切なことのほとんどは小室みつ子の歌詞から学んだといっても、きっと大げさではないはずだ。
2020.07.19