みなさんは少年少女時代に「まだ CD プレイヤーを持っていないにも関わらず、CD を買ってしまった」という経験をお持ちではなかろうか?
僕の場合は1987年、中学2年の夏、TM NETWORK のベスト盤『Gift for Fanks』がその一枚だった。87年の春から秋まで、瞬間最大風速値でいえば自分史上最高ともいえる熱意で TM にのめり込んでいた。ちょうど TM の全国的ブレイク期にあたる、シングル「Get Wild」からアルバム『humansystem』までのことだ。
その頃は火曜日の深夜となると、『とんねるずのオールナイトニッポン』を録音しつつ、もう一つあるラジオの周波数を宮崎県から必死に東海ラジオに合わせ、裏番組だった小室哲哉『SF ROCK STATION』を雑音だらけの中で懸命に聞きかじっていた。我ながら涙ぐましい良き思い出である。
87年夏に発売されたベスト盤『Gift for Fanks』は、当時としては珍しく、LP もカセットテープもリリースされずに「CD のみ」の発売だった。いま考えてみれば “さすが小室哲哉” と納得もできるわけだが、少なくとも僕のまわりはまだまだアナログレコードかカセットテープが一般的。今ほどには安くなかった CD プレイヤーは、僕の家にはまだなかった。
それでも、僕は当然のように CD『Gift for Fanks』を買いに行った。初めての CD 購入である。買って帰る時、小さくて文房具みたいだと思った。帰っても CD プレイヤーは家にない。聴けない。ブックレットを眺めたり、ケースをパカパカ開けたり閉じたり、銀盤に顔を映したりした。やることはそれだけである。
実にむなしい… とは大人の見方・考え方で、当時僕は CD を手に入れただけでそれなりにご満悦だった。片手に収まる見た目がいかにも TM 的なデジタルさ。LP にないガジェット感が、ガンプラ&ファミコン育ちの中学生に丸ごとフィットした。さらにベスト盤だったから、収録曲を全部聴いたことがあることにも救われた。
後日、友人にダビングしてもらったカセットテープで、その夏に聴き倒すほど聴いて、事なきを得た―― と、思っていたのであるが、本当の問題はこの先に待っていた。
TM が秋にニューアルバム『humansystem』を発表するというのである。そして今度は、LP も CD もカセットテープも発売される。ここでメチャクチャ迷った。CDプレイヤーは当面買ってもらえる気配はない。
だがしかし、TM ファン “Fanks” の一人を自認する者としては、この新譜は「高音質かつ傷がつかない、永久に音が劣化しない」と言われている CD を買うべきなのではないか? もしかして小室哲哉はそのように強く望んでいるのではないか? あるいは CD で聴かないと TM の良さがわからないのではないか? などなど、僕は大変勝手な自意識過剰の強迫観念じみたくだらない自問自答を悶々と繰り返すようになってしまったのだ。
―― で、結局、聴けもしない CD をまた一枚買ってしまった。しかも、今度は新譜である。買って帰って、いま一番聴きたいものが聴けない!
そこで初めて本末転倒、痛恨のミスに気がつく。またまた後日、友人の世話になりダビングしてもらった音質の悪いカセットテープでアルバムを聴いた。自分の愚かさを嘆き、奇しくも『humansystem』という中学生にもなんとなくわかり得る己の生き方を問うようなタイトルが慰めのように思えて、さらに僕をヘコませた。その時ばかりは、心底虚しかったですねぇ…
ところで、僕の初代 CD プレイヤーは、「年明けから受験勉強を頑張ります!」という条件つきで、その年の冬休みに買ってもらった。
AIWA 製で、春を待たずに壊れた。
2018.09.24
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